この管理ではやる気が......
銀行の若手時代に渉外担当をしていた頃のことです。渉外チームは課長の下に担当者が5人つく態勢でした。最初に仕えたH課長は、担当者時代の成績が評価され、若くして昇格したばかりのやり手タイプ。彼は5人全員に目標数値を均等に貼り付けると、項目別にいつまでにどれを達成しろと叱咤しました。それは彼が担当者の時に自らに課してきた自己管理方法で、我々担当者の意向を聞くことなく、いきなり部下の管理にも適用したのです。5人の一致した意見は、この管理ではやる気が損なわれ目標達成は難しい、というものでした。
結果は悲惨でした。「今月は複数の遠方物件実査があるので、重点推進項目Aの推進はきついかなぁ......」「忘れてた! 資格試験勉強の追い込みが近いんだった......」。「昨日父が入院しちゃいまして、まいりました。しばらくは残業なしで病院に行かないと......」。やらされ感満載の5人から噴出したのは、明らかに言い訳と取れるムニャムニャした台詞のオンパレードでした。まさに目標未達成間違いなしの、やらされ感の中でのセルフ・ハンディキャッピング。チームの成績はメタメタになり、H課長は転勤になりました。
後任として赴任したのは、ベテランT課長でした。彼は打って変わって放任主義。我々担当者に提案したのは、全員が個々の得意分野を主担当として活動し、それぞれのやり方で目標を目指し、5人のトータルでチーム成績を達成しよう、という方針でした。
当時の支店長はこのやり方に不安を覚えました。H課長の厳しい管理下でも動かなかった渉外チームを放任主義で管理したら大変なことになるのではないか、と疑心暗鬼だったのですが、予想に反してT課長の放任策が大ヒットを呼びました。チーム目標は大幅突破。支店は総合表彰を受賞。渉外担当者全員が全店表彰を受けるという前代未聞の大記録を達成したのです。