先代経営者から、当代経営者へどのように経営を引き継いだかを聞いたところ、「一緒に仕事をして」が74%、「口伝」が18%、そして社史が4%でした。筆者の調査では、長寿企業の経営陣に占める同族者の割合は51%と、わずかに半数を上回っています。つまり、経営者とともに働いている役員陣のうち、半分は同族で、半分は非同族ということです。
その役員の中に、次代の経営を任せる人材があり、その多くが同族で、一緒に仕事をしながら、経営を継承しているということです。
さて、あなたの会社では、いま、経営の継承はどういう局面にあるのでしょうか。それが社員にまったく見えないとしたら、経営年数が短いか、経営が継承されたばかりかの、いずれかであってほしいところです。経営の継承は、とくに若手社員にとっては、会社の将来像を描く、大事な要素になるからです。
あの大企業に「経営継承のマニュアル」はあるか
今回の調査では、経営者一代の経営期間はおよそ40年になりました。かなり長い期間、経営に携わっていますが、それは継承の期間も含めてのことですから、社長であるとは限りません。そして、1代目には継承する期間があり、2代目以降には、その40年のなかに継承される年数と、継承する年数が含まれています。この継承期間を、先代と当代の経営者がいかに過ごすかが、非常に重要です。
この調査では、世界最大の民間会社で、日本での経営年数が120年になったエクソン・モービル・ジャパンの代表者にも、アンケートとインタビューをしました。マニュアル社会の米国で、経営の継承もマニュアル化が進んでいるのか、強い関心がありました。答えは「マニュアルは一切無い。一緒に働いて継承する」ということで、意外な内容でした。経営の継承は、エクソン・モービルのような豊富な人材と、長い歴史のある会社でも難しい、と考えているようです。
継承の成否は人間関係で決まる
この継承期間中に、継承する者同士の人間関係が良好かどうか。実は、これが経営の継承に大きな影響をもちます。後継者が、先代経営者を超えたいと思うのは自然なことです。しかし、それは先代を否定することではなく、先代を認め、良いところを伸ばし、良くないところは経営が完全に委譲されるまでは手をつけないぐらいの寛大さが、後継者には必要です。ところが、机上で理想を語るのは容易いことですが、非常に難しい。
ある商社の社史を作ったときのことです。父である創業者と、長男である後継者は社史の取材に席を同じくせず、日常的に互いが顔を合わせないようにするほど、関係が悪化していました。ひとりずつ別に話を聞くと、内容に大きな問題はなく、立派に経営をしているようでした。しかし、2人の間に意思疎通がほとんどありません。
会社は株式公開まで進みましたが、公開したとたんに業績が悪化。14年後には身売りするはめになり、多くの社員が会社を去ることとなりました。企業は外からの圧力で潰れるよりも、内部の不仲や亀裂によって、その力を失ないます。
さて、あなたが勤めている会社はいかがですか。経営陣は仲がよいですか。現在の経営者と後継者はよい関係をもっているでしょうか。それは会社を維持、継続してゆくのに、何よりも重要な問題なのです。(浅田厚志)