ルールなきがごとき実社会に出る君 不公平、不平等とあまり言わないで

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   高校や大学で講演をすると、「何か優良企業の上手な探し方はありますか」という質問をよく受けます。これまでは『就職四季報』(東洋経済新報社)などをお薦めしてきましたが、2016年5月、もっと目的にかなった本が刊行されました。『新しいニッポンの業界地図みんなが知らない超優良企業』(田宮寛之、講談社+α新書)です。

   著者は東洋経済新報社の編集局メディア編集委員で、2009年に東洋経済HR(ヒューマンリソース)オンラインを立ち上げた経済ジャーナリストです。タイトルが示す通り、新たなビジネスと関連企業を業界地図的に紹介しています。

企業数少なく命拾いの私

2つに分けて、だいたい平等
2つに分けて、だいたい平等

   紹介している企業は250社。ドラマ「下町ロケット」のモデルとなった東海メディカルプロダクツ、新幹線のトイレを製作している五光製作所、屋外用侵入検査センサーのオプテックスなどなど、一般知名度がゼロの企業から、東京都、北九州市(水ビジネスを展開)、オリンパス(デジカメのイメージが強いが医療事業が売り上げの73%)などの、知名度はあってもその内容があまり知られていない事業も紹介しています。就活生ばかりでなく社会人にもお薦めできる好著です。

   惜しむらくは紹介企業数の少なさですね。一般知名度がない企業だけ、となると、150社程度しかありません。業界地図的にという狙いから、水ビジネスからファミリーレストランまで幅広く網羅されていますが、もうちょっと業界を絞って、企業数を多くしていただいたほうがよかったかもしれません。

   とはいえ、私にすれば命拾いをしました。というのも、現在、同じ企業紹介網羅ものを新書企画として売り込んでいるところだからです。題して『「就職四季報」で目立たない優良企業1000社』(仮タイトル)。モノづくり業界のメーカー・商社などに絞ってまとめる予定です。網羅ものは作業が大変だ、ということで、目下4社からボツを食らっているところですが、出版できるようであればまた改めてご報告します。

セブンのコーヒーメーカーは

   『新しいニッポンの~』にしろ、『就職四季報』にしろ、あるいは私が売り込み中の新書企画にしろ、読む人は読むだろうと思います。特に当コラムを毎回読んでくれている読者は大丈夫でしょう。問題は読まない人です。

   私が学生に優良企業の話をすると、特に就活中盤から後半にかけて、「そんな企業、知らなかった」と言います。それくらいならまだしも、「誰もそういう話、教えてくれなかった、不公平だ」とまで言い出します。

   そうかあ? 誰からも教えてもらえなかった学生が、みんな優良企業を知らないままかと言えば、そんなことはありません。知ろうとする努力をした学生は、たとえばセブン‐イレブンのコーヒーメーカーを作っているのが富士電機で、重電機器メーカーでは日立製作所、東芝、三菱電機に次いで4位の優良企業であることを知っています。

   こういう不公平感、企業選びだけでなく就活の時期論争にもよく飛び出します。2016年6月2日付け日本経済新聞の記事「面接解禁 はや内々定」の結びの部分にこんな一文がありました。

「経団連は7月以降に採用活動の実態を調査し、18年卒の学生向けの採用活動の方針を決める予定だ。すでにルールの形骸化が進んでおり、学生間の不平等を生まない採用のあり方を模索する必要がある」

   7月に実態調査ということはまとめるのが10月ごろ。そこから、かりに時期変更をするにしても、広報解禁時期は動かせないでしょう。ということは、2018年卒は現状維持の「3年3月広報解禁・4年6月選考解禁」。「3年12月広報解禁・4年4月(ないし6月)選考解禁」という時期変更は、早くても2019年卒以降となることが濃厚となった、ということです。そして、その変更がどの学生にとっても不平等にならないように、と。

   要するに不公平感を生むな、というわけですが、私は「それは無理な話」と考えます。就活時期をいつにしても、無関心な学生は無関心なまま。自分が知らないままでいることを棚に上げ「不公平」「不平等」と文句を言うのは、何か違うのではないでしょうか。

   大学受験までは、決められたルールにのっとって事が進められます。が、ひとたび社会に出れば、ルールはあるような、ないような曖昧な状態です。その第一歩が就活という現実なのではないでしょうか。

就活にも同じことが

   私は、半沢直樹シリーズの3作目『ロスジェネの逆襲』(池井戸潤、ダイヤモンド社)のラストを思い出します。

   子会社の東京セントラル証券に出向させられた半沢は、親会社の銀行証券部門と戦って最後に勝利をつかみ、泣きついてきた証券部門の部長と担当副頭取に対して、中野渡頭取はこう語ります。

「頭でっかちの集団だからな、証券本部は」
「きっと君たちは、机に向かって問題と答案用紙を配られたら、誰にも負けないいい点数を取るんだろう。だが今回の試験は、まず解くべき問題を探してくるというところからはじまっていたようなものだ。君たちは、その肝心な勝負に負けた。その結果、君たちは、間違った問題を解き、間違った答えを出した。だが、東京セントラル証券のほうは、たしかに通常の手続きとは違ったかも知れないが、正しい問題を把握し、導くべき結論を導き出した」

   テーマは異なりますが、就活にも同じことが言える、と私は思います。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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