聞いて聞いて、聞きまくる
そんな折、社長レースに敗れ送り込まれたH氏。歴代のトップが、「あれをやれ」「これをやれ」と一方的な命令コミュニケーションで接していたのですから、迎える生え抜きたちが、表には出さずとも内心で反発するのは当たり前です。ガス抜き目的の宴席さえしっくりこないありさまで、H氏も先人同様、歴史ある子会社の生え抜き幹部のプライドや自負を前に、苦戦のスタートを強いられたのだと言います。
「どうしたら生え抜き幹部たちと一体感をもってうまくやれるのか。そこで思いついたのが、自分を前向きに変えてくれたS女将の、聞き手に徹するコミュニケーションでした。とにかく彼らの話を聞いて聞いて、聞きまくること。これを徹底的に続けてみたら彼らの不平不満はいつしか改善提案に変わり、それが組織を鼓舞するエネルギーになったわけです」
トップのちょっとしたコミュニケーション方法の転換で、おもしろいように組織がうまく回るようになり、結果的に本体社長への返り咲きの布石となったのです。殺し文句は、まんまS女将のおなじみの台詞、「いろいろ教えてくださいな」だったとか。一流クラブ女将のコミュニケーション術、恐るべしです。
「百聞は一見にしかず、です。S女将のお店、今度ご一緒にいかがですか?」
確かに一度この目で確かめてはみたいと思うものの、私なんぞには場違いな世界です。丁重にご遠慮申し上げました。(大関暁夫)