銀座の女将に学んだ苦労人社長、切られた親会社へみごと返り咲く

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いつの間にか前向きな話を

   お祝いの言葉やら今後の展望やらは手短に切り上げ、おもむろに件の女性の話を切り出しました。

「先ほど会のはじめに、和装のお美しい女性が真っ先に駆け寄られていたのをお見受けしたのですが、どちらの方ですか?」

   すると社長、なんのてらいもなくあっけらかんと、

「あぁ、Sさんね。銀座ですよ。部長時代からの、そこそこ長いお付き合いでして。あの世界の方も、Sさんのように一流になられると、口では『いろいろ教えてくださいな』などと謙虚なことをおっしゃいますが、実はこちらが学ぶべきことがとても多い。今回ばかりは感謝の気持ちをお伝えしたくて、無理を申し上げてお越しいただいたのです」

   上場企業の社長が夜の世界の女将に学ぶべきことが多いとは、いったいどういうことか。ますます興味が惹かれましたので、さらにそのあたりを突っ込んでみました。

「子会社に転出を命ぜられた時、今思えばきっと愚痴っぽい話をしていたと思うのですが、彼女と話していると知らず知らず、いつの間にか前向きな話をしている自分に気が付くのですよ。巧みな『聞き手術』というのでしょうか、こちらが驚くほど前向きになれるのです。コミュニケーションって相手の受け答えひとつでガラリと変わるものなのだと、大きな気づきを与えられました」

   H氏の転出先は、地方の名門オーナー企業を買収したものであり、親会社の官僚組織的な風土とは180度文化が違うのだといいます。H氏の前に送り込まれたトップたちは、親会社風を吹かせるばかりで親子融合に手を焼き、実質的に組織を束ねる生え抜き幹部社員をコントロールできずにいたのだと。結果、10年以上の時を経てなお、買収の効果は十分に上がらなかったのです。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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