「任せて任さず」
大切なのは、信頼とチェックのバランスだろう。つまり「人はそもそも誠実さ(善)を備えている」という信頼感をベースに相手に任せながらも、「人は誰でも自分に甘く、弱い心をもっている」という点も忘れずに、「ちゃんとできているか」というチェックを怠らず、できていなければ軌道修正を促すという勘所を押さえて初めて、性善説による管理は成り立つ。
松下幸之助の名言に「(権限委譲は)任せて任さず」というのがあり、現在でもパナソニックの管理職研修における重要なキーワードになっていると聞いたことがある。さすが、言い得て妙だ。部下に任せるだけなら誰にでもできる。任せつつも責任をもって見守り、導かなければならないのがマネージャーの辛いところであり、醍醐味でもあるということだろう。
名言をもう一つ。山本五十六の有名なことばに、
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
があるが、これには次のような続きがあるということを、恥ずかしながら最近知った。
「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」
「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」
「やってみせ......」は新任者に対して基本動作を叩き込むレベルといえるだろう。その上で、部下をさらに育成して才能を開花させるためには、やはり「任せる」「信頼する」という要素が不可欠になってくるということが、この名言からも見て取れる。
しかし、真の性善説によるマネジメントを実践するためには、ただ「任せて」「信頼する」だけでなく、部下をしっかり見守って、コミュニケーションを大切にし、成果を認めることも怠ってはならない。山本五十六はそのようなことも力説していたのかと、痛く感心した。
それに続けるのはおこがましいが、かわいい部下を不正に走らせないためには、次のような心掛けも必要だろう。
「言い放ち、任せっぱなしで、鵜呑みにし、正さなければ、人は誤る」
(甘粕潔)