東芝やシャープのような例を見るまでもなく、会社は経営者の考え方や、とった施策によって、その先行きが大きく左右されます。ましてや、中小企業の場合はなおさらです。
経営を継承する人は、約80%がいままでの経営者の同族です。今回は、そういう後継者に、どのような考え方が求められるのかを、現在の経営者に聞いてみました。
同族経営の関心事は維持、継続
第1位にきたのは、「社員との良好な関係」で、31%の経営者が挙げています。後継者も同族がほとんどですから、まずは、そういう経営に社員が納得して、付いてきてもらわねばなりません。そうしたことから、社員への気遣いがトップに上がったのでしょう。とくに、後継経営者よりも年齢が高く、社歴も長い先輩社員たちへの気遣いは尋常ではありません。彼らは、営業や生産などの各部署のマネジメントの中枢を握っており、彼らの支持がないと、次代の経営者は、はしごを踏み外してしまいます。
次にきたのが「利益確保への執着」で19%でした。経営者として、何が何でも利益を出す経営を貫いてほしい、という現在のトップからのメッセージでもあります。
経営者は会社に大きく成長してほしい、と思うより以前に、無事に経営を維持、継続してほしい、という思いのほうが強いものです。
非同族経営者は、いわば一定期間だけの雇われ経営者ですから、自身が退任した後の経営に対して、危機意識が希薄になりがちですが、同族経営者は自分が退いた後も、会社と家系はつながっているので、期間の区切りはありません。よって、会社が継続するための「利益確保」は必須なのです。
そして、第3位は「販売先との良好な関係」が15%できています。常時取引のある有力、友好な販売先、仕入れ先とは長いおつきあいがあります。まずは、そういう取引先と親しく、良好な関係を築いておくのが、次代の経営者の大事な責務です。
長寿企業は社員の雇用を守ることが第一
同族経営者は、筆者の調査では75%以上の株式をもっています。ということは、役員はもちろんのこと、経営をチェックする監査役まで任命、解任する権限があります。よって、経営権から言うと、社員に媚びる必要はまったくありません。しかし、「奢る平家は久しからず」。普段の営業、製造、管理部門の現場は、社員の工夫、才覚、努力によって成り立っています。
長寿企業は、そのような関係を長年の経営から熟知しており、いかに、社員との良好な関係を、日頃から築いていくかに腐心しています。
長寿企業と言えども、最初はビジネスの内容そのものが目的であったのが、長年の間に、組織そのもののために動くようになっています。つまり、会社を維持するために、社員の雇用を守ることが第一の目的になっているのです。
あなたの会社は、社員のやりがいや自己実現に、どれほどの関心をもっているでしょうか。それは同族経営を続けていく会社なら、なおさら重要な問題なのです。(浅田厚志)