今回のテーマは「選考解禁後の動向」です。本稿公開は2016年5月30日。その2日後が選考解禁です。今まで水面下で動いていた大手企業も選考に入っていきます。
その大手企業ですが、例年以上にリクルーターの活用に力を入れる企業が増えました。リクルーターは、採用担当以外の若手社員が務めるもので、出身大学の学生に声をかけ、やり取りしながら学生の適性を見ていきます。
難関大学に限定されてしまうものの、時間をかけて学生を見ることができます。学生からすれば、年齢の近い若手社員と話すことができるので、会社の雰囲気などを理解できるメリットがあります。面談を重ねる中で、就職全般の相談も含めて学生とやり取りするリクルーターが多いのも特徴です。
連絡がぱったり途絶え
しかし、リクルーターも社員ですので、通常の仕事の片手間に就活学生の相手をすることになります。しかも、社によってはノルマがあります。学生を何人担当する、何人を選考に上げる、切る......といった。
リクルーターは、内定を出す可能性を感じる学生に対しては親身になって相談に乗ります。それは親切心からというより、面談対象の学生を増やすノルマがあるからです。そこで、メールからSNSに至るまで密につながります。
ところが、担当の学生が内定者となる可能性がなくなった、つまり選考に漏れた状態になればどうでしょうか。他に仕事を抱えていますし、採用担当部署からも、「落ちた学生には変に期待を持たせないように。連絡は控えるように」と言われることもあります。
かくて、リクルーターから落ちた学生への連絡がぱったり途絶えることになります。
たまらないのは就活生です。これまでリクルーターが親身に相談に乗ってくれ、「自分には大手企業のリクルーターが付いている。就活も人生も、勝ったも同然」と思い込んでいたら、いきなりの手のひら返し。いくら連絡しても全然返事がありません。
「第一志望の企業なので、どうしてもその思いを伝えたい」
「もう一度、チャンスが欲しいと訴えてみたい」
学生からそんな相談を受けることもあります。
賢明なる社会人読者の方ならお分かりになるでしょう。これ、恋愛の別れ話と同じで、事実上もう別れたも同然なのです。あきらめきれない学生は、悪いたとえで言えば、別れ話に納得がいかないストーカー予備軍のようなもの。いくらメールを送っても、電話をかけても、詮ないことです。
という話を相談してきた学生に話すと、相当の確率で嫌われます。ある学生は、半分くらい理解してくれながらもこう言いました。
「接触してからしばらくは親身になって。ダメになったら、スルー。なんだか人間不信になりました」
うん、まあ。昔から言うじゃないですか、「戦争と恋愛は手段を選ばない」と。
オワハラは下火に
一方の企業は、と言えば、こちらも同じ心境。説明会・選考のドタキャン、内定を出しても辞退、そう簡単に内定承諾にまでたどり着きません。それも例年の光景とも言えますが、今年ちょっと異なるのは、学生の企業理解の浅さです。採用側からは、
「勢いで就活に参加したものの、『本気で就職したい』というよりは周囲に流されてとりあえず参加、という学生が去年以上に多い」
「内定が出てから、うちでいいかどうか、と考えだす学生が目立つ」
などのぼやきが聞こえます。
背景には、就活期間の変化があります。2016年卒については3年生の3月広報解禁~4年生の8月選考解禁でした。8月より前に選考・内定出しをしている企業が大半だったとはいえ、少なくとも5か月間は学生が企業選びなどを考える余裕があったのです。
しかし、今年(2017年卒)は3年生の3月広報解禁~4年生の6月選考解禁。考える余裕は、わずか3か月しかありません。2か月の短縮により、はやばや内定を取る学生であっても、企業理解の浅さという期間短縮の弊害が露呈してしまうのです。
2014年ごろから問題になった、オワハラ。内定した学生に他社の選考辞退や内定辞退を強要するハラスメントの一種ですが、今年はかなり沈静化しました。
企業からすれば、オワハラをやったところで逃げる学生はどのみち逃げてしまいます。しかも、悪い評判は外に漏れ出てしまうため、下手にやらかさないほうがいい、と学んだようです。ただ、学生への接し方に慣れていない一部の企業やリクルーターなど若手社員の場合、結果的にオワハラになる、というケースは存在します。
フィードバック面接(面接終了後に学生に結果をフィードバックする)も導入企業が増えました。学生の満足度を上げるために、選考中に現役社員・役員らが食事を伴にする懇親会を実施する企業も増えています。学生を親身に指導する、というコンセプトですが、これが逆効果となるケースもあります。
ある企業で、採用担当の課長補佐がフィードバック面接にやって来た学生を顔面蒼白にさせてしまいました。指定のあったエントリーシートを持参しなかった学生に非はあるのですが、その課長補佐は、こんなふうにやんわり教え諭したといいます。
「エントリーシートを持参するよう、事前に伝えているはずですよね。それを忘れた、ということが社会人になろうとしている君にとって、善なのか悪なのか、ちょっと考えてもらいましょうか」
内容は辛らつそのもの。「これ、面接とは直接関係ないですけどね」と言い添えても、全然フォローになっていません。この話を教えてくれた、上司の人事担当部長はため息をつきながらこう認めていました。
「親身の指導どころか、パワハラ認定ですよ、あれで」
企業も人間不信に
どうせ歩留まりが悪いから、と内定者の数を増やしたり、選考を1期ではなく複数に増やしたりして対応しようという企業も増えています。「学情」の内々定率速報(5月20日発表)によると、内々定率が国公立大文系27.0%、私立大文系29.9%、国公立・私立理系28.8%。昨年に比べ3~12%ほど増加しています。やはり選考解禁時期の変更が影響しています。
一方、入社意思ありの割合は国公立大文系8.4%、私立大文系8.4%、国公立・私立理系11.3%。それぞれ、低い水準にとどまっています。
学生に振り回されてばかりいる企業の採用担当者は次のように話してくれました。
「学生からの内定辞退や選考のドタキャンで、人間不信になりそうです」
うん、まあ。昔から言うじゃないですか、
「戦争と恋愛は~(以下略)」
(石渡嶺司)