改革の本丸が見えた! 一億総活躍プラン、相変わらず「矢」が「的」だけど

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   先日、政府がかねてから策定を進めていた「ニッポン一億総活躍プラン」が発表された(関心のある人はこちらから)。概要は、政策運営の柱として、強い経済、少子化対策、そして介護離職ゼロを新・三本の矢として掲げるものだ。

   一見して、書き上げるのに相当苦労しているなと分かる労作だが、残された課題も少なくない。いい機会なので整理しておこう。

規制とバラマキ目立つ

改革の本丸は
改革の本丸は

   まずは課題から説明しよう。

   相変わらず、"矢"が"的"である。

   前回の成長戦略プランの際にもさんざん言われた点だが、今回もやはり"矢"が矢ではなく"的"になってしまっている。たとえば最初の矢である「強い経済」について、それを実現するためイノベーションと生産性向上を挙げるが、そんなことはいつの時代だってやるべき当たり前の話であって、具体的に何をどうするのかはさっぱり分からない。

   ちなみに、"的"と"矢"の定義については、実現したいと考えている社会像が"的"で、どうやって実現していくかのプロセスが"矢"だと考えるとわかりやすい。

   単純に本プランに目を通しただけで「一億総活躍できて、経済強くて、子供がばかばか生まれて、社会保障が盤石な社会」がイメージできる人が、どれだけいるだろうか。おそらく9割の人の頭の中では「GDP600兆円」とか「出生率1.8」といった数字だけがむなしく飛び回っているだけではないか。

   そして、全体的なトーンとして「非正規雇用労働者の賃金を正社員の6割から8割ほどに上げさせる」「最低賃金を1000円に上げさせる」等の規制と、「保育士、介護士の賃上げをします」等のバラマキのみが目立っており、規制緩和で民間の活力を引き出すような改革は全く見当たらない。

   筆者は規制やバラマキを全否定はしないけれども、多くの場合、それらは市場に歪みをもたらし、効果にしても限定的なものに過ぎないと考えている。解雇規制を緩和して正社員と非正規を同じ土俵で競争させたり、各家庭にバウチャーを配りつつ保育料や保育園新設に関する規制を緩和した方が、「総活躍」というに相応しい効果を生むのではないか。

「働き方改革」の方向性は評価

   一方、従来のスタンスから大きく前進した部分もある。それは、改革の本丸が労働市場改革であることに言及した点だ。本プランでは新・三本の矢の説明の後にわざわざ一章「2.一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題である働き方改革の方向」を割き、以下のように解説している。

最大のチャレンジは働き方改革である。多様な働き方が可能となるよう、
社会の発想や制度を大きく転換しなければならない。

   本連載がたびたび指摘してきたように、経済停滞や少子化といった問題の根っこに横断的に存在しているのは、硬直した労働市場の問題だ。それを明言した点は、とりあえず現政権が進むべき方角を(実際に進むかはともかく)向いてはいるということを示しているように見える。

   もちろん本プランが身のある形で実現するためには、これから長いいばらの道が待っている。だが逆に言えば、アベノミクスが急失速し、野党も対案を示せぬまま安保問題に逃げ込んでいる今こそ、多くの有権者が政治からのメッセージに耳を傾けてくれるという意味でチャンスではないだろうか。

   筆者はこの夏、衆参同日選挙が行われる可能性がいまだ高いと考えているが、その際はぜひとも与党には本プランを掲げて争点にしてほしいと思うし、野党には正々堂々それを上回る真・一億総活躍プランをぶつけてほしいと願っている。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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