事業承継、先代に「余計な口を出させない」ため後継者が心すべきことは

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求められる「第二創業」の意識

   皮肉なことに、事業承継が比較的うまくいったケースでは、先代の突然の逝去、あるいは重病による実質引退が引き金となる場合が多いのです。今回の酒蔵Mの事例も、先代に健康面でのトラブルがあったわけではありませんが、上の立場から余計な口出しができなくなって、という点で共通していることは注目に値します。

   一方事業を引き継ぐ側の観点では、Y社長の行動に学ぶべきものが多くあります。二代目、三代目というのは往々にしてお坊ちゃんタイプが多く、なかなか自分から動かなかったり、得意分野以外は人任せにしたり。そういった頼りなさが先代を不安にさせ、いつまでも余計な口を挟ませる余地を生じさせる、そんな場面を多く見てまいりました。

   Y社長が優れているのは、そもそも大手電機メーカーのSEという、一見場違いな職を迂回しながら、そこで現場重視の姿勢をしっかり学んだ点です。酒造りにおいても、とにかく現場に入り、問題点を現場と共有し、現場と共に悩み、考え、現場と共に改善を進める現場第一主義を徹底しました。また、「自社の自信作を販売するのに、自分が売って歩かないで誰が売る」という意気込みのもと、日本酒の品評会に自ら頻繁に足を運び、有力酒卸店や小売店、日本酒の専門家たちに直接、熱意を持って売り込みをかけました。こうした他人任せにしない姿勢はあらゆる後継者が見習うべき点であると思うのです。

   Y社長が心がけ実践したことは、あるいは創業社長にとってはごくごく当たり前の行動だったのではないでしょうか。それが二代目、三代目になるとほとんどできていなくなった。そこが一番の問題点だったのじゃないかと、私には思えるのです。

   彼の熱意あふれる行動の数々は、重要な示唆を与えてくれました。変えるか変えないかはともかく、後を継ぐ者は「第二創業」の意識を持たなくてはいけないと思うのです。創業者なら、現場を人任せにできるはずがありません。自信を持って作った商品の販売を「自分の仕事ではない」と言い出せるはずがありません。そんな行動を自然と起こすような意識を持つこと、すなわち「第二創業」の意識こそが後継者には求められるのです。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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