定年退職後の再雇用と賃金引き下げをめぐり、「正社員と契約社員で職務内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは、労働契約法に違反する」との判決が2016年5月13日、東京地裁で出た。原告側弁護団によると、再雇用時の賃金引き下げを法律違反と認める判決は初めてという。
会社に差額分の支払い命じる
各紙の報道によると、原告は、横浜市内の運送会社で定年退職後、嘱託社員として再雇用されたトラック運転手3人。正社員の時と業務内容が変わらないのに賃金が約3割引き下げられたのは違法だとして、定年前と同じ賃金を払うよう会社に求める訴訟を起こしていた。
判決で、佐々木宗啓(むねひら)裁判長は、「雇用確保のため企業が賃金を引き下げること自体には合理性があるが、財務状況などから今回はその必要性はない」などと指摘、原告側の請求通り、正社員の賃金規定を適用して差額分を支払うよう会社側に命じた。
13年4月に施行された改正労働契約法20条では、有期雇用社員と正社員との間で、賃金や労働条件に不合理な格差をつけることを禁じている。だが実際には、企業側が定年を迎えた社員を契約社員として、賃金を引き下げて再雇用することが一般化している。
産労総合研究所が13年5~6月にかけて実施した「中高齢層(40~65歳)の賃金・処遇に関する調査」によると、約9割の企業が、60~65歳の社員について「嘱託・契約社員として再雇用する場合が最も多い」と回答。また、賃金を「一定率を減額する」と明言した企業は28.8%で、仕事内容は「おおむね60歳前と同じ」と答えた企業は81.4%に上った。
このまま判決確定なら影響大だが
今回の判決が、他の業界や企業に何らかの影響を及ぼすことはあるのだろうか。J-CASTニュースは、労働問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士(東京弁護士会所属)に話を聞いた。 岩沙弁護士は、仮に被告が控訴せずこのまま判決が確定した場合、「企業側は対応に追われることになる」と話した。とくに再雇用時に職務内容の変更がしづらい中小企業の場合、「高齢社員の再雇用についての考え方が根本的に変わるため、今回の判決が雇用機会の減少につながる可能性もある」とも指摘した。ただし、大企業の場合は、「そもそも、同じ職務内容で再雇用するケースは少ないのではないか」といい、中小に比べると影響は少ないと見る。
岩沙弁護士は、「今回の判決は、あくまで地裁が下したものです。今後被告が控訴した場合、判決がひっくり返る可能性もでてくると思います」という。