新年度に入り、毎年恒例の公的機関による中堅・中小企業の新人向け営業担当者研修の講師を務めさせていただきました。
真新しいスーツ姿と、社会人になりきれていない、初々しい表情で講義を聞く真剣な眼差しに、毎度のことながらこちらも「初心忘れるべからず」の思いで気持ちを引き締めさせられます。
欠席者4人は全員退職
今年の研修で驚いたことがありました。例年なら、定員30人の研修で急病などによる欠席者は1人か、せいぜい2人。ところが今年は4人もの欠席者がありました。
昼休みになり、研修担当者との雑談で、「例年よりも欠席者が多い感じですが、インフルエンザでもまた流行っているのでしょうか」と尋ねてみると、意外な答えが返ってきたのです。
「4名の欠席者は皆、退職だそうです」
え? 退職って、まだ入社から10日ほどしか経っていないじゃないですか。しかも4人も。みな別々の会社所属ですが、それぞれ新卒を採用するような会社ですから、中堅・中小企業といってもそれなりの規模と業績であることは想像に難くありません。入社間もない新人があちらこちらの会社で辞めてしまうとは! それぞれの職場で一体何があったのでしょう。
私はそのことに、職業的な関心を引かれました。
そんな私の疑問に対して50代前半の研修担当者曰く。
「彼らはゆとり世代の最後期、バブル崩壊後誕生組ですからね。のんびり世代が社会人生活の洗礼を受けて、思惑と現実の違いにいきなり出社拒否になってしまったのではないかと」
確かに問題を「世代のせい」と学校教育や経済情勢に責任転嫁してしまうのは簡単ですが、その世代を受け入れる企業側にも問題があるのではないかと思ったりもするのです。
というのは、以前にゆとり世代の営業担当にヒアリングをした時に、興味深い話を聞いたからです。
どんな時に辞めたくなったか
ある企業で営業チーム強化のお手伝いをしていた時のこと。ゆとり世代のグループヒアリングで私は、「これまでどんな時に、会社を辞めたくなったか」という質問をしました。私は「実績が上がらず、叱責される時」とか、「失敗してお客さんに叱られた時」といった答えを予想していたのですが、少々外れていました。
皆が一様に共感していたのは、「新人時代に、何をやっていいのか分からなかった時」だったのです。逆に「叱られることは、プロとして仕事をしているという実感が得られる」という意見も出るほどに、辞めたくなる要素とは少し違うのだと。
「一番辞めたかったのは、新人時代に何をやっていいのか分からなかった時」。この発言を思い出して、10日で退職し研修に来なかった4人もそうだったのかもしれないと想像しました。
ではなぜ受け入れ側の企業は、新人が「何をやっていいのか分からない」状況を作ってしまったのでしょうか。
「ここ数年、毎年新人を数人採用するものの、必ず2~3か月で辞めてしまう社員が出る」という、IT機器販売のD社社長から聞いた話にそのヒントがあるように感じました。
「今の連中はヤワなやつが多いから厳しくやりすぎるなよ、と管理者に口酸っぱく言っているのですが、それでも毎年辞める新人が出てくる。現場でやりすぎたのではないかと実態を調べると、今の管理者には、叱るどころか新人から嫌われたくないとばかりに、指示すら出せずに自分ですべてやっちゃう連中が多いのです。それを新人は、自分は会社から必要とされていないのだと勘違いして、『存在感を感じられる会社』への転職を考えるようなのです」
「ゆとり」が「ゆとり」を
社長によれば、実は同社の管理者世代こそ、1966年生まれ以降の、文部省が詰め込み教育からゆとり教育へ方針転換した結果生まれた「ゆとり第一世代」なのだとか。彼らが新人として社会人デビューした頃は、「傷つきやすいので、やさしく大切に扱え」とばかりに大事にされ、会社員生活の入口から過保護に育てられました。
その彼らが今や指導者の立場になったわけです。背景にはゆとり管理者がゆとり新人を受け入れる時代が来たという、これまでになかった新しい難しさが秘められているようなのです。
「結局毎年中途採用で新人が抜けた穴埋めをすることになるし、何より辞めてしまう新人が気の毒なので、今年から新卒採用はやめました」と、D社社長は、もはや新卒採用についてはあきらめムード。新人を辞めさせずに育てるには、まずはゆとり世代管理者教育が不可欠、そんな結論を示唆する社長の話でした。
世の中堅・中小にも、「新卒を採れることなら採りたい」という企業は実に多いのです。しかし短期退職者が増えている昨今、新人も会社も不幸にならないために経営者が取るべき姿勢は、ゆとり管理者の有無を含めた人材育成環境を十分認識した上で、自社にゆとり新人を受け入れる体制が整っているか否かを判断することではないかと思われます。そうした慎重さをもって採用活動をして欲しいと切に願うところです。(大関暁夫)