「私の顔を見るなり、人前にもかかわらず、コテンパンに怒鳴る。火かき棒で、バンバン叩きながら説教される・・・ついに私は貧血を起こして倒れてしまった」(遊津孟『松下幸之助の人づかいの真髄』から)
これが松下幸之助の部下の叱り方である。
「叱るのは本人の間違いを指摘し、再び間違いを起こさないようにする、本人の将来を思えばこその行為である。叱ってもらえることは、ありがたいことなのである」
叱られた人々が、以前にもまして、自分の態度を反省して精進し、自己成長を遂げ、「叱りに対して感謝」を述べている。一つのよき時代だった。
叱責の大前提となるもの
しかし、現代では、この「叱る」と、「パワハラ」の境が非常に難しい。
日本全国で「ストレスチェック」が行われ、社員の健康診断の一つとして「メンタルチェック」が義務化された。「心理的負荷」を把握する検査である。部下への接し方を誤ると、パワハラと誤解される可能性も皆無ではない。
すなわち、受け止める人の「心理的負荷の程度」が問題となる。
心理療法の用語に「ラポール」という言葉がある。
心の病に向き合う「治療者」は、わがままな患者に対して、時には痛烈な叱責を加えることがある。その大前提となるのが、ラポールである。
つまり治療者と患者の「信頼関係」である。どれほど優秀な治療者であろうと、この信頼関係がなければ、治療効果は望めないのである。