松下幸之助に学ぶ 部下を叱る=パワハラと誤解されない要点

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「私の顔を見るなり、人前にもかかわらず、コテンパンに怒鳴る。火かき棒で、バンバン叩きながら説教される・・・ついに私は貧血を起こして倒れてしまった」(遊津孟『松下幸之助の人づかいの真髄』から)

   これが松下幸之助の部下の叱り方である。

「叱るのは本人の間違いを指摘し、再び間違いを起こさないようにする、本人の将来を思えばこその行為である。叱ってもらえることは、ありがたいことなのである」

   叱られた人々が、以前にもまして、自分の態度を反省して精進し、自己成長を遂げ、「叱りに対して感謝」を述べている。一つのよき時代だった。

叱責の大前提となるもの

二人の間にラポールは成立しているか
二人の間にラポールは成立しているか

   しかし、現代では、この「叱る」と、「パワハラ」の境が非常に難しい。

   日本全国で「ストレスチェック」が行われ、社員の健康診断の一つとして「メンタルチェック」が義務化された。「心理的負荷」を把握する検査である。部下への接し方を誤ると、パワハラと誤解される可能性も皆無ではない。

   すなわち、受け止める人の「心理的負荷の程度」が問題となる。

   心理療法の用語に「ラポール」という言葉がある。

   心の病に向き合う「治療者」は、わがままな患者に対して、時には痛烈な叱責を加えることがある。その大前提となるのが、ラポールである。

   つまり治療者と患者の「信頼関係」である。どれほど優秀な治療者であろうと、この信頼関係がなければ、治療効果は望めないのである。

佐藤隆(さとう・たかし)
現在、「総合心理教育研究所」主宰。グロービス経営大学院教授。カナダストレス研究所研究員。臨床心理学や精神保健学などを専攻。これまでに、東海大学短期大学部の学科長などを務め、学術活動だけでなく、多数の企業の管理職向け研修にも携わる。著書に『ストレスと上手につき合う法』『職場のメンタルヘルス実践ガイド』など多数。
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