「企業の生命力」を見極める 「創業時の商品」と「変遷力」の関係

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   前回は、長寿企業のなかで、どれぐらいの企業が業種を変えて生き残ってきたか、という割合や内容を見ました。今週は、さらに突っ込んで、どれほどの企業が、創業時の販売商品とつきあっているのか、を見てみます。

   ここからわかるのは、企業の商品開発力と遷移力です。社会はつねに変化します。とくに、明治維新以後の約140年の変化は、著しいものでした。江戸時代の国内変化があまりに緩慢であっただけに、維新以後の変化は激しさもひとしおでした。しかも、2度の戦争と数多くの自然災害、経済変動を経験しています。そういう中で、長寿企業は生き残るために、どのように変化してきたのでしょうか。

同業種内で商売を変える

のれんを守りながら商品を遷移する
のれんを守りながら商品を遷移する

   300社アンケートによると、創業時に扱っていた商品を、いまは全く扱っていない企業は96社の30%。そして、売り上げの25%以下が33%、110社を占めていました。合計206社で、全体の63%が創業時の商品を扱っていないか、主力ではないということです。

   前回の転業率の全体数値は16%でしたから、転業はしていないけれど、創業時の商品をまったく扱っていない企業は、少なくても14%になります。これに、25%以下の取り扱い比率の企業33%を加えると、47%の企業が同業種内で主力商品の遷移を行っているのです。ここに長寿企業たるゆえんが隠されているように思いませんか。長寿企業は転業力よりも、同業種内の遷移力のほうが強いことがわかります。

団扇からカレンダーへ

   では遷移力とは、どのようなものでしょう。取材により、このような企業が例としてあげられます。

   100年余りの歴史を重ねた印刷会社は、創業時に団扇(うちわ)・扇子を作っていました。戦後の1970年代までビジネスモデルを維持してきましたが、エアコンが普及するにつれて徐々に団扇、扇子の需要が縮小してゆき、同時に、中国製が入ってきて値崩れが起こりました。そこでカレンダーの企画・制作に変化してゆき、現在の主力商品となっているようです。この2つには印刷物という共通項はありますが、形態や用途もずいぶんと違っているので、詳しい話を伺いました。

「団扇は企業が自社の名前を刷り込んでお客様に配ったり、花火大会で配ったりしていました。企業の宣伝用の印刷物ならカレンダーも同じです。ビジネスモデルとしては同じ範囲内にあるのです」

ポイントは製品よりも付加価値

   なるほど、団扇は1年のある時期に集中的に配られるものですし、個人が購入してもつ団扇はまれです。印刷物と言うより、広告代理店的な動きと付加価値が必要となれば、きわめて近い商品です。企業の遷移力は飛び石ではなく、商品を横にずらしてゆくことがわかります。

   一方、忘れてはいけないのは、18%の企業がいまだに75%超の売り上げが創業時の商品だということです。赤福餅の株式会社赤福はその代表企業です。創業者の素晴らしい才覚がいまも輝いています。

   どうやら、事業の遷移は、製品よりもその付加価値にポイントがありそうです。あなたの会社は、いかがでしょう。新商品は出ていますか。商品のアイテム数は広がっていますか。その場にとどまって生き延びられる企業はきわめて希です。お客様のニーズに常に注目してゆくことと、徐々に取扱商品を変えていくことは、イコール企業の生命力を表します。自社をしっかり見つめてみましょう。(浅田厚志)

浅田厚志(あさだ・あつし)
青山学院大学総合研究所・客員研究員で、長寿企業の経営哲学などを研究中。「出版文化社」代表取締役社長でもあり、創業以来、多くの社史・記念誌の企画制作や、出版企画プロデュースなどを手がけている。著書に『成功長寿起業への道』など。
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