花粉が飛び散る季節が終わり、やっと気候も春の本番を迎えましたね。4月になって新しい担当や部署に変わった人もいるかと思います。また中には、昇給や昇進等をした方もいるのではないでしょうか。昇進をし、会社の管理職になると管理手当や役職手当が貰えるようになると思いますが、実は残業代がつかなくなってしまうのは皆さんご存知でしょうか?今回はそんな役職に就いている方の残業代にまつわる解説をしていきたいと思います。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
事例=毎週残業20時間でも月2万円の管理職手当だけ
私は現在会社で主任として働いています。しかし、私の部署はごく少人数の5名で構成されており、私以外の人には部長・次長・課長・係長とそれぞれ役職が付いています。私よりも下の部下はおりませんので、管理職とは名ばかりの肩書です。なぜ、このような状況になっているのかと言うと、管理職手当が給料についており、その代わり残業代が一切出ません。週に残業を20時間弱行っており、管理職手当が出ていますが、月に2万円程度なので、採算があいません。この様な人件費の削り方は、法律違反ですよね?(実際の事例を一部変更しています)
弁護士回答=法律上の「管理監督者」に当たるかを判断
今回のご相談は、いわゆる名ばかり管理職の問題ですね。このような手法をとっている会社は特に中小零細企業では多いかもしれません。
まず前提からお話ししますと、管理職という言葉は労働基準法上の言葉ではなく、会社の考えとしては同法41条2号の「管理監督者」に当たるという主張だと思います。これに当たる場合は、労働基準法上の労働時間、休暇、休日などの規定の適用はありません。要するに、労働基準法上の管理監督者に対しては、会社側は残業代の支払いをしなくてもよいのです。
判例上、管理監督者は、「労働条件その他労務管理について経営者と一体的立場にあるものをいう」とされており、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきとされています。
つまり、肩書ではなく、会社におけるその人の権限や仕事の重要性、勤怠の管理がどの程度されているか、給与や手当はどの程度もらっているのか、そういった材料から管理監督者か否かを判断していくことになります。
そのような観点から考えると、部長や次長クラスになると、職務権限、勤怠状況の管理や報酬によっては、管理監督者に当たる場合がでてきますし、主任という名称でも、仕事や手当の内容により、管理監督者に当たる場合もあるということになります。
なお、会社側に名ばかり管理職を作らないようにするといった義務はなく、平社員対して管理職のような肩書きを付与すること自体は違法ではありません。しかし、会社は、前述の基準に照らして管理監督者ではない労働者には働いた時間に応じた給与を全額支払わなくてはならず、これに反するような取り決めは原則として違法となります。ちなみに、代表取締役や役員は労働者とは違い、雇用契約ではなく委任契約であるため、労働基準法の適用がなく残業代は請求できません。
職務の実態から残業手当を請求できる可能性も
ご相談者のように、主任ということで管理職手当を得ていたとしても、職務の実態として、管理監督者であると認められなければ、残業代を請求できる可能性があります。
今回の場合、部署に5人しかおらず、一般的には主任が一番下の役職で有り、おそらく勤怠時間も厳格に管理されているでしょうから、ご相談者は管理監督者に当たらないと思われます。
ご相談者が月20時間程度の残業をされているということであれば、本来であれば会社は20時間分の残業手当を支払わなくてはいけません。このとき、ご相談者が受け取っている管理職手当が、残業代の前払い分であるという主張が会社からされる可能性はありますが、その点を考慮してもなお、残業代の未払い部分があるということであれば、会社に対して残業代を請求できるでしょう。
ポイント2点
●企業は自由に役職付けを行うことができる。しかし、管理職として認められるのは、仕事や手当の内容により、管理監督業務に当たっている実態が有る場合である。また代表取締役や役員は、適用外である。
●管理監督業務に当たっている実態が無い場合は、管理監督者で有ると認められず、残業代を請求できる可能性がある。