メンタル不調「部長」が転職でイキイキ 新旧組織で何が決定的に違ったのか

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   知り合いのOさんから、最近、人材系の上場企業T社に部長職として転職したとの連絡と共に「とにかく一度会社に来てください」とのお誘いをいただき、表敬訪問しました。T社は、持株会社の業務分野ごとの事業会社をぶら下げ、続々それを増やす形でここ十数年の間に急成長を遂げています。

   オフィスをたずねてみると、社内は最近日本企業でも増えてきたフリーアドレス制をとっていました。テレビで見たりフリーアドレス制企業勤務の知人の話を聞いたりはしてはいましたが、私自身が本格的なフリーアドレス・オフィスに足を踏み入れたのは初めてのことなので、なんとも興味津々でした。

フリーアドレス制職場のメリット

どの席に座ってもいいよ
どの席に座ってもいいよ

   フリーアドレス制とは、自分の座る席が決まっていないオフィスのことで、毎日出勤すると好きな席、あるいは空いている席で仕事をするということになります。T社の場合には、社長以下、役員も皆フリーアドレスだそうで、気が付けば隣で社長がキーボードを叩きながら話しかけてくる、などという場面も日常的にあるようです。

   銀行という最も保守的な組織に育った私は、「自分の座席が決まっていないのは、なんか落ち着かないのではないか」「同じセクションのメンバーが一箇所にまとまっていないと、非効率ではないのか」とか思ったりもして、そのあたりを早速Oさんに尋ねてみました。

「転職直後は少し戸惑いましたが、慣れるととても快適です。同じセクションのスタッフばかりにコミュニケーションが偏ることなく、社長はじめ役員クラスも含め誰とも距離感を縮めて話ができます。社長が率先して社員と接する姿勢は大きいですね。チームでのミーティングはメールで声かけしていつでもできるので、特に不便もない。何より縦横隔てのないコミュニケーションが活発なので、社内が明るく前向きな発想に溢れています」

前の会社では「自然自然とイエスマン化」

   確かに、一見カフェと見まごうようなオフィス空間デザインの力もあるとは思いますが、一歩足を踏み入れると、とにかくその社内の明るくオープンな雰囲気に圧倒されるのです。

   「『人材企業であるがゆえに、人こそ我が社の最大の資産。皆が快適な環境で、忌憚のない意見を出し合えることが理想』という言葉に全てが集約されていると思います」というOさんの表情は、いい会社に転職できたという自信に満ち溢れていました。

   彼の前職はIT系上場企業P社の営業部長でした。P社は、30代の社長が率いる急成長企業。経営スタイルはオーナー創業者である社長の超ワンマンで、完全トップダウン型の管理体制でした。社内コミュニケーションは一方的な社長の指示が中心で、幹部を含めた社員は、社長の顔色をうかがいながら戦々恐々としつつ皆、自然自然とイエスマン化して口数も少なくなり、Oさんも常に疲労感に満ちた雰囲気が漂っていたのです。

   聞けば彼が転職を決意したキッカケは、こんな前職の職場環境で軽度の心身症を患ったことだったと言います。それが今や、イキイキと自社の説明をしつつ前向きな提案を仕掛けてくる姿に、髪の毛の1本1本にまでに溢れるような活力を感じさせるのです。会うたびに悩みや愚痴ばかりを聞かされていた私からすれば、転職わずか1か月でのこの変貌ぶりは本当にびっくりしました。「とにかく一度、会社に来てください」という言葉の裏には、「元気に変貌した自分と、それを叶えてくれた素晴らしい職場を見て欲しい」、そんな思いが込められていたのだと理解しました。

部署を超えた協力関係

   ある調査機関が企業数十社を対象におこなった、「イノベーティブな風土と組織のコミュニケーションの関係」という興味深いレポートがあります。それによれば、『イノベーティブな風土』と最も相関が強かったのは、「トップを含めた幹部同士のコミュニケーション」と「社員間の所属部署の領域を超えた協力関係」にあり、同時にこの2要素間には強い相関性が認められたといいます。これは、組織の幹部同士のコミュニケーションが、現場社員の既存の枠組みにとらわれない行動に影響していること、既存の枠組みを超えた横のコミュニケーションが『イノベーティブな風土』醸成に影響していること、を示唆しています。

   そしてもうひとつ、この調査では、幹部社員ひとりあたりが1週間に他の幹部メンバーの2割程度としか話していなかったことも判明しました。中には半数以上の幹部が他の幹部メンバーとまったく話していない、という企業も。その半面、現状の2倍以上のメンバーと目標達成のために話し合いたい、という気持ちを持っているという結果も出ているのです。

   こうやって見てくると、多くの企業経営者に共通の「組織活性化」「社員の自立性欠如」「企業風土改革」といったお悩みは、実は社長自身がその解決のカギを握っていると言えそうです。社長が、いかに一方的でなくかつ分け隔てのないコミュニケーションを社員との間に持てるか、幹部を中心としていかに自然と社員間のコミュニケーションが活性化するような仕掛けが社内につくれるのか、ソフト、ハード両面からの変革意識が社員と会社に新たな活力を生み出す原動力になるのではないでしょうか。

   Oさんの活力あふれる変貌ぶりとT社のイノベーティブな雰囲気を感じさせる社内に、大きなヒントをいただいた気がしました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
姉妹サイト