政治がやるべきことをやっていない
というわけで、筆者が黒田総裁に回答するのならば、およそ以下のようなコメントになる。
「なぜ日本人の賃金は上がらないんだろうか?」
「社会保険料の慢性的な引き上げや実質定年延長といった措置が、雇用労働者の賃金を引き下げる大きな圧力となっています。また、『第三の矢』である構造改革にほとんど手を付けていないため、企業の先行き見通しは暗く、固定費を増やす意欲もわきません。要するに、政治がやるべきことをやっていないのが原因であり、残念ながらこの状況は今後さらに悪化することはあれど、好転することはないでしょう」
さて、この程度の話は別に筆者でなくとも普通の経営者や識者であれば誰でも理解しているレベルの話だ。ただ、今回の一件から判断するに、ひょっとするとエリート街道一直線の黒田総裁は、こうした泥臭い現場目線の話はご存じないのかもしれない(ちなみに白川前総裁は賃金低下の理由として、日本の労働市場の構造的問題に何度か言及している)。
だとすると、これは結構恐ろしい話だと筆者は思う。
「あれれ?ボクちゃん頑張ってこんだけ金融緩和してるのに、なんで賃上げされないんだろ。ようし、マイナス金利もっと拡大しちゃえ!」
とエンジンに異常を抱えたまま、氏がアクセルをさらに大きく踏み込んだ時に何が起こるか。筆者には想像もつかないが、それが氏が望むようなものでない事だけは確かだろう。(城繁幸)