私事ですが、この2016年3月末で独立してちょうど10年になります。それをひとつの区切りとして、今年1月から毎月1回、ビジネスパーソンの交流フォーラムを主催させていただいています。
ありがたいことに、人と人とのつながりの中で大企業から中小・ベンチャーまで様々な実業界の皆様に毎回50人ほどご参加いただき、これまでの個人的な人脈の集積場として機能させつつ、参加した皆様には楽しく人の輪を広げていただく交流の場を提供しています。
どうやってこんなに幅広く?
3月の開催に初めて参加された、とある社長から、「何より大関さんの人脈の幅広さに、驚かされました。やはり長年の銀行勤めというものは、素晴らしい人的財産を築けるのですね」と話しかけられました。
「いや、それは少しばかり違います」
私はやんわり否定しました。もちろん銀行時代のつながりで、お越しいただいている方もいらっしゃいますが、大半の皆さんは銀行を退職後に、いろいろな現場や集まりや人の紹介を通じて新たに知り合わせていただいた方々だからです。
「へぇそうなのですか。どうやってこんなにも幅広い人脈をつくられたのですか」
社長は不思議そうにそう尋ねてこられたのですが、まずはとにかく人と会い直接話をすること。初対面で「この人と仲良くなっておきたい」と思った人には、後日必ず直接アポイントをとって訪ねて行き、改めてじっくり話をすること。さらに相手との関係を深めたいなら、何度でも手土産情報を持って足繁く通ったり、食事を共にすること。それに尽きるとお話しさせていただきました。
かつての上司が教えてくれた
実は私の人脈のつくり方は、銀行本部時代の上司から学んだものなのです。
当時私の上司であったF副部長は、とにかく日中ほとんど自分の席にいない。しかも夕方席に戻るや、接待や会議がない限りほぼ毎日定時に職場を出るという、一日デスクにしがみついて大量の残業も厭わないというのが常識的な銀行界にあって、非常に珍しいタイプの方でした。
では日中は何をしているのかと言えば、銀行内でとにかくあらゆる部門に顔を出し、役員以下各部署のキーマンとの様々なミーティングに明け暮れていました。時には「部内の打ち合わせはお前らに任せたぞ」との発言もはばからず、部内よりむしろ部外を重要視しているようで、部内から不満をぶつけられることもありました。
しかし、副部長は日頃の他部門との密な関係づくりにより他部門からの信頼が抜群に高く、お陰で我々部下はどれだけ仕事がしやすかったか知れないのです。
夕方の定時帰りは、決して家に早く帰るのが目的ではありません。連日他業界の友人や知人たちと「情報交換」と称して食事をしながら、あるいは杯を傾けながらひと時を過ごす、時には友人の紹介で様々なパーティーに顔を出す、そんな毎日を送っていたのです。
「社内の人間や同じ業界の人間ばかりと付き合っていたら、世の中の流れが正しくつかめなくなる」
が口癖で、我々にも「とにかく社外人脈を大切にしろ」と常々話していました。
部下が何か仕事での悩み事をぶつけた時には、決まってしてくれたことがあります。分厚い名刺ホルダーから1枚の名刺を取り出して、「これをコピーしろ。俺が事前に一言入れておくから、そいつに連絡を取っていろいろ話を聞いて何かヒントがつかんで来い」と言う。自分の人脈の中から惜しまず人を紹介して問題解決の糸口を探らせるというやり方でした。お陰で我々も、随分と社外に人脈をつくるチャンスを与えてもらったものです。
F副部長は、銀行の中で人脈が量、質、共に図抜けていました。銀行では最終的に専務取締役にまで上り詰められ、その後東証一部上場企業の社長として活躍されました。地銀の一役員が一部上場企業のトップに座るケースは少ないのですが、あの人脈組成、活用術はどの業界どの組織にいても、まちがいなく企業経営の役に立ったのだと確信しています。
若手経営者もその効果を実感
3月の私主催の交流フォーラムでは、以前私の営業セミナーを受講してくれた、アーリーステージにある起業家の方からも人脈づくりに関して話しかけられました。
「大関さんのセミナーを聞いてから、『とにかく人に会う』を実践しました。その成果をまず私が実感し、うちの若いスタッフにも同じことを指示しました。するとネット時代育ちの若手たちが、1回の直接面談がメール10回分、いや20回分以上の効果があることを実感してくれ、業績が目に見えて好転してきたのです。ネットやメール依存営業からリアル中心営業に、それが成功に向けた大きなポイントであると思いました」
ネット界で成功している経営者の皆さんも、その活動実態を聞けば、実は裏で驚く程のボリュームでリアル営業を仕掛けているものです。やはり対面コミュニケーションによる人脈づくりの大切さを実感させられます。
これまでも、社長がコツコツと作り上げた人脈が瀕死の窮地から救ってくれた会社や、逆に内弁慶で人脈づくりをサボってきたがゆえに外部から支援を得られず会社を潰してしまった二代目など、人脈の有無にまつわる悲喜交々を見てきました。
私自身も、親から引き継ぐ事業もなく、商売になる資格を持つでもなく、依って立つものがないままこれまでやってこられたのは、間違いなくF副部長流で積み上げた人脈のお陰なのです。独立から10年、人脈づくりの大切さを改めてしみじみ感じさせられた交流フォーラムの一コマでした。(大関暁夫)