『会社という病』(江上剛、講談社+α文庫、税別880円)
経営者や上司からのプレッシャーを受け、数字の不正操作や偽装に手を染める社員ら――著者は、東芝の巨額不正会計などの例を挙げつつ、日本企業の間で、なぜこんな信じられないような事件が頻発するのか、と問う。
出した答えは明快で、「社員が疲れ切っているから」だ。では、なにが彼らをそんなに疲れさせてしまうのか。その原因として、会社の中に巣くう、さまざまな「病」を挙げて分析、その対処法にも触れている。語りかけるような筆運びで、何だか、著者と一緒に軽く食事でもしながら、「もっと肩の力を抜いていけ」と時に慰められ、時に叱咤激励される、そんな気分になる250ページだ。
出世という病、成果主義という病...
取り上げた「病」は29種類。出世という病、上司という病、成果主義という病......などが並ぶ。たとえば、「上司~」の項目では、「タイプ別」バカ上司の生態を紹介したうえで、こうした上司と出会った場合、最善の策は、「とにかくどんなやり方でもいい」ので、「逃げる」ことだと勧めている。
次善の策は、「オープンな場で大声で戦うこと」で、著者の銀行員時代の経験談として、酒席でネチネチと攻めてくる部長に対し、先輩が行った意外な「一撃」が成功した例に触れている。一方、最もありがちと思える、「交代するまでひたすら我慢する」対応は、それでは病気になってしまう、と否定的だ。
議論の説得力を増しているのは、著者自身の会社員(銀行員、銀行最大規模支店の支店長)時代や、日本振興銀行社長を務めた経験からの具体的なエピソードだろう。現在、小説家やテレビコメンテーターとして知られる著者はかつて、第一勧業銀行(現みずほ銀行)の広報部次長として、総会屋利益供与事件の混乱収拾にあたった中心人物の一人。当時の経営幹部らが逮捕されたり、元頭取が自殺したりするなどの厳しい局面で培った洞察力が、随所に生かされている。
総じて現場にいる会社員への優しい眼差しを感じるが、数字しか頭にない経営者や上司の意向を忖度して「自主的」に悪事を働く「忖度族」だけにはなるな、と厳しく注文する箇所もある。
「最近、何だか仕事でやる気が出ない」という人は、「会社の病」に侵され気味なのかもしれない。本書からは、そんな「病」を癒すヒントが見つかる(KW)