「貸しを返してもらう」と不正を正当化
そう。答えは「2」だ。
この事例は、職務怠慢の度合いがひどいため、Aが懲戒処分を受けるのは当然だろう。しかし、一時が万事である。経費処理の管理者は「本来会社に請求すべき経費を自己負担するのも不正請求である」ということを日頃から口酸っぱく部下に刷り込んでおき、毎月の経費処理を厳しくチェックしなければならない。
「上司にも相談できず自分で支払った」という心理状態も興味深い。不正リスクを高める3つの要素(不正のトライアングル)の「他人と共有できない問題」をAも抱えていたということになる。だらしない担当者が悪いと言ってしまえばそれまでだが、担当者に任せきりにしていた上司の責任も重い。
さらに、このような自己負担を放置しておくと、たとえ自分の意思で請求しなかったのだとしても、本人の心の中には「会社に貸しを作った」という意識が生じる。そして、そのようなわだかまりが高まると、自己負担をさせられたという不満感(不正の動機)が生じ、「貸しを返してもらう」と不正を正当化するリスクが高まってしまう。その結果、今度は、経費の不正請求や集金現金の着服などの不正行為に走ってしまうことになり兼ねないのだ。
経費処理は事業活動に付き物であり、経費の不正請求(多すぎるのも少なすぎるのも)は、あらゆる組織に存在するリスクである。皆さんの部署は大丈夫だろうか。今一度、タクシーチケットの管理方法や経費申請処理のフローを見直す必要があるだろう。(甘粕潔)