弁護士解説 会社は受診させなければならない
会社が行う健康診断については、労働安全衛生法という法律に定めがあります。
会社は、従業員に健康診断を受診させる義務を負っており、正社員については全員、契約社員については契約上の雇用期間が1年以上の者、アルバイトやパートについては1週間の労働時間が正社員の1週間の労働時間の4分の3以上の者に、健康診断を受診させなければなりません。健康診断は、従業員の人数や資本金の額など、会社の規模がいかなるものであっても、必ず実施しなければならず、実施しなかった場合には50万円以下の罰金が科せられます。一方で、従業員には、会社の実施する健康診断を受診することが義務付けられています。
会社は、雇入れ時の健康診断と年1回の定期健康診断を実施する義務を負っており、深夜業務など特定の過酷な環境下での業務に従事する者に対しては、年2回の定期健康診断を実施しなければなりません。さらに、特定の有害業務に従事する者に対しては、業務内容に応じて、じん肺健康診断や石綿(アスベスト)健康診断といった特殊健康診断も実施しなければなりません。
ちなみに、通常の健康診断については、業務の遂行に直接関連するものではなく、従業員の一般的な健康の確保を目的としたものなので、受診のために要した時間を労働時間として扱うかどうかは、労使で協議して定めるべきものとされています。したがって、休日に健康診断を受診した場合でも、就業規則に定めがない限り、受診に要した時間分の賃金を請求することはできません。これに対し、特殊健康診断については、業務を遂行する上で当然必要なものとされており、業務時間外に受診したときは、割増賃金を請求することができます。
以上より、ご相談者の会社も、少なくとも年1回の定期健康診断を実施しなければならず、建築系の会社ということなので、場合によっては年2回の定期健康診断や特殊健康診断を実施する必要があるでしょう。今回のご相談では、会社の車で自損事故を起こしてしまい、減給という懲戒処分を受けています。しかし、事故を起こした原因が、健康診断を実施しないなど従業員の状態に無関心で、過労を放置した会社の姿勢にあるならば、懲戒処分は権利の濫用として無効になる可能性がありますね。