かつて「スパルタ上司」といわれる人々がいた。中堅精密メーカーのA(59歳)さんもそうだ。Aさんは下町ロケットを地で行くような、熱血漢であり優秀な技術者であり、職人魂の持ち主だ。
定年がちらつくAさんにとって、自己課題は、技術の伝承であった。そこに転職組のBさん(32歳)を教育することになった。Aさんは持てる力を振りしぼり、仕事を覚えるようにBさんを厳しく指導した。
Bさんは3か月後、出社できなくなった
「昔は軍隊。今、会社」といわれた時代があった。新兵が、上官殿に向かって支給された軍靴が「合わないのであります」というと、すぐに「バカ者、何を言うとる、お前の足を靴にあわせろ!」と怒鳴られたという。
Aさんは、自分の昔の新入社員の時、こんな風に厳しく教えられた。
Aさんは「愛の鞭(ムチ)」を与えることが、部下指導と思っていた。しかし、部下のBさんは、3か月後には、出社ができなくなった。「このままでは、僕は壊れちゃいます。上司が怖いのです」と人事部長に訴えた――
愛の「鞭」ではなく「無知」で指導
ストレスチェック義務化の時代です。上司は、部下を元気にやる気にさせて一人前です。部下に心理的負荷をかけてうつにさせると失格、といわれる時代です。コンプライアンスを遵守し、科学的方法で育成することが求められています。
精神分析学的考え方ですが、白雪姫は「児童虐待」を受けて育ちました。しかし、やがて白雪姫は自分の娘にも虐待を行うようになります。これを「被虐待児症候群」と言い、これに連なる症候群を白雪姫症候群というそうです。
今回のAさんは、新人の時に「いじめ」にあったとのことです。個人的見解ですが、白雪姫と同様に、もしかすると、そのトラウマがBさんに向かったかもしれない。自分が嫌なことをされたらしない。しかし、無意識的に教育という形で逆にしてしまう。私はこれを「白雪姫上司症候群」と呼んでいます。
新人教育をする上司の立場にある人々は、指導が「愛の鞭」のつもりが、独りよがりの思い込みや「無知」から出ているかもしれない。山本五十六・海軍大将の「やって見せ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ」という言葉を思い出します。人の上に立つ人は、正しいマネジメント能力を身につけ、自分の心が「白雪姫上司症候群」的になっていないか、自問自答しながら人を育てましょう。(佐藤隆)