「孤独な社長」に求められる勇気 悩んだ時、まず行うべきコト

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   このコーナーを担当させていただくようになってから、初対面でお目にかかる経営者の皆さんにからも極力「社長の今一番のお悩み」を聞いてみるようにしています。

   一番多いのは「人」に関すること。「部下が育たない」「後継がいない」「自分の考えを周囲が理解できない」等々。組織運営のお悩みとしては、定番です。特に中小企業で、「人」に関するお悩みを持っていない経営者はいない、と言ってもいいほどではないでしょうか。

本当の「今、一番のお悩み」とは

まずは相談
まずは相談

   次に多いのが、「営業」や「売上」に関すること。「営業チームがうまく機能せず、売上が思うように伸びない」とか、「既存取引が細っているのに、新規開拓がうまくできない」といったもの。営業の基本や営業管理、営業戦略等々をテーマとしたセミナーや講演のご依頼をたくさん頂戴し、それぞれに多数の皆さまにご来場いただいている現状からも、この点でのお悩みの多さもまたうかがい知れるところではあります。

   付き合いの浅い経営者の方々が、「人」や「営業」の問題をお悩みの筆頭にあげてお話しされているのに対して、少し長いお付き合いや深いお付き合いを通じてある程度気心が知れた仲にある社長方からは、決まって別のお悩み話が筆頭に登場するのです。

   それはおカネの話。「資金繰りで相談したいことがある」「手元資金が足りないのだが、どうしたらよいか」「銀行からおカネを借りるべきか否か悩んでいる」等々、私が元銀行員だからということはあるのでしょうが、「ここだけの話ですが...」という前置き付きの真顔で聞かされるのは大抵おカネのお悩み。これこそ、多くの悩める社長が抱える本当の「今、一番のお悩み」なのではないかと思わされることしきりです。

   「社長は孤独」などとよく言われ、自らも「孤独」を気取る社長氏も結構見受けられます。そういう人に限って「社内では相談できない」「社員には知られたくない」お悩み、その多くはおカネに関するお悩み、を抱えているもの。そして、この独りで抱え込まざるを得ないと判断したお悩みを、独りで抱え込んだが故に深刻な事態に陥ってしまうこともあるのです。

事業の話が滞った理由

   飲食店複数経営40代前半のH社長。自営のカフェで出しているスウィーツ系の菓子類が大好評で、デパートの催事などにも呼ばれテレビや雑誌でも取り上げられるなど、注目を集めていました。たまたま雑誌を見た古くからの友人で輸入商社を経営するT氏が、店売りだけではもったいないから別会社化し、T氏人脈を使って大手と組んで量販流通ルートに乗せて販売するなど、新規ビジネスを一緒に立ち上げようと持ちかけてきました。

   H社長の店は一見に順調に見えていましたが、実は氏こだわりの設備投資がかさんで赤字が続いており、毎月の資金繰りにも窮する状況でした。H社長はT氏の提案に「地獄に仏」の心境で飛び付きました。T氏と共同で会社を設立する話が具体化した段階で、量販ルートに乗せるためには、製造現場を整備するなど初期投資用にそれなりの出資か銀行借入が必要、ということになりました。が、それはどちらも、現状のH社長には到底困難な話でした。

   話はH社長預り状態のまま先に進まなくなり、T氏は何が起きているのか全く分からず業を煮やして言いました。

「一緒に事業をやろうと合意したのだから、すべて包み隠さずお話し頂かないと困りますよ。あんなに乗り気でいたのに、何がネックで話が止まっているのですか。教えてもらえないのなら、私はこの話から降ろさせてもらいます」

   T氏の強硬な申し出に、H社長はやむなく、実は日々の資金繰りにも困っているという実情を話し始めました。T氏は唖然とします。

   「この話を聞いた段階で『では、さようなら』と背を向けてもよかったのですが、古くからの友人が心底困っているという話をそのまま聞き流してしまうのも後ろめたい気がしまして」と、T氏は元銀行員の私に「相談に乗ってあげて欲しい」と、この話を持ち込んで来たのです。

まず人に相談してみる

   私はH社長の相談に乗ることになりました。決算書を見たところ、3期前から繰越損失が発生し、前期決算では遂に債務超過になっていました。ほったらかしの税理士もひどいものですが、もう少し早く相談していたなら、いくらでも改善策はあったはずに思えました。

「ずっと悩みに悩んでいたものの、どうしていいか分からず、友人、社員はおろか身内にも相談できず、一生懸命働けばなんとかなるだろうとズルズルここまで来てしまいました」

   腰を据えて聞いた社長の身の上話に、仕事にかける前向きで真摯な姿勢と技術探求心が十分理解できたので再建は可能と判断し、当面やるべきことを指示しつつ知り合いの資金繰り改善専業のコンサルタントを紹介し、彼にH社長の人となりを話した上でその運命を委ねることにしました。

   2週間ほどして、社長から電話がありました。

「いろいろな策を授けていただき、少し光明が見えてきました。がんばってみます。おカネの話は恥ずかしいと躊躇せず、もっと早く誰かに相談すれば良かったと本当に思います」

   社長であろうとも、決して孤独ではありません。むしろ責任が人一倍重い社長であるからこそ、何かに悩んだらまず人に相談してみる、そんな勇気を持つことが大切なのです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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