家族主義経営というのは、長期的な雇用を前提として、社員を家族の一員のように考えて、処遇をしていくこと。実力主義経営は、社員を会社の一部と考えて、各人がもっている実力によって処遇していく、という考え方です。
家族主義は家族的なチームワークを尊び、社員に実力がないから(劣ったから)と言って、即解雇にはつながりません。一方、実力主義は能力がポジションに見合わないと、降格や退職勧奨もありえます。前回紹介した調査では、真ん中に「どちらでもない」を置き、左右に「家族主義」と「やや家族主義」、「実力主義」と「やや実力主義」をおいた5段階で尋ねました。
「実力主義」が45%だが...
経営年数が長い長寿企業は、家族主義経営をしていると考えられがちですが、調査によると、そうではないようです。家族主義はわずか3%、やや家族主義を加えても20%でした。一方、実力主義は8%で、やや実力主義を入れると45%になり、圧倒的に実力主義に傾いていました。意外な結果です。
ちなみに、家族主義経営と同族経営とは同義ではありません。同族経営は株式の過半数が一族に所有されている場合や、経営陣のなかに経営執行の権限をもった一族が過半数いる場合を指します。家族主義経営は、経営陣が同族である必要はなく、経営の考え方をテーマにしています。
回答者の多くは経営者なので、「我が社はこういう考え方で経営している」という自身の意見を述べていますが、その中には「こうありたい」という希望を述べているケースもあるでしょう。これに他項の回答を掛け合わせていくと、徐々にその希望部分がはがれ落ちていきます。この回答だけで長寿企業の経営を実力主義と判断するのは早計のようです。
米国式MBA経営の考え方
現代は米国式MBA(経営学修士)経営がもてはやされている時代です。会社は売上を生み出す装置と考え、いかに効率よく利益を上げるかが求められます。会社を株主のものとし、経営は雇われたプロの経営者が執行する。会社自体も販売できる商品と考えて、企業価値を上げることに主眼が置かれています。そこに家族主義経営が入り込む余地はありません。
近年、日本でもMBAを取得した経営者が華々しく活躍しているのを見て、長寿企業の経営者達も、先人が行ってきた家族主義経営と、新しい時代の要請である実力主義経営の間で揺れ動いているようです。その迷いが34%、3社に1社が「どちらでもない」を選んでいることからわかります。
では、長寿企業ですら実力主義経営に傾いているので、年数の浅い多くの企業でも「実力主義」が幅を利かせていると考えてよいのでしょうか。営業や生産や企画など、社員が力を発揮する現場で、各人がもつ実力で社内の優勝劣敗が決まると考えるなら、これほど明らかな指標はなく、人事査定にも苦労しません。ところがどっこい、そこには大きな落とし穴があります。次回に、それを明らかにしましょう。(浅田厚志)