「心すべき教訓」3点
社長は、数か月にわたる株式の買い取り請求と言う名の返済圧力に耐え切れず、親の所有資産の売却による支援と、親戚・友人筋から出資協力を仰ぐことで、なんとかかんとか出資金を返還しました。人間関係をもズタズタにするような心労は並大抵のものではなく、精神的苦痛からか健康を害し、文字通り身も心もボロボロになってしまいました。事業は完全停滞し、大半の社員は離れていきました。歯車は完全に狂ってしまいました。
H社長は、失意の中でこんなことを言っていました。
「経営者たる者、おだてには乗るな。うまい話は疑ってかかれ。常に最悪のケースを想定しておけ。結局、高い授業料を払ってそれらを学びました。もう一度チャンスがあるなら、今度はうまくやれると思います。しかし、もうその体力が会社にも私にもありません」
M氏にはH社長の二の舞は避けて欲しい、そう思った私は、まず法律家に相談するよう勧めました。出資の際の契約書記載事項はどうなっているのか、出資比率と議決権の関係で買い取りを強制できる状況にあるのか、ベンチャー・キャピタルのやり口は脅迫にはあたらないか、等々を専門家の目で検証してもらい、時間稼ぎをしながら新たな出資先、提携先を探すなり、最良の善後策を模索すべきと考えたからです。
『おだてには乗るな。うまい話は疑ってかかれ。常に最悪のケースを想定しておけ』。ベンチャー・キャピタルとの付き合い方に限らず、これから起業をめざす人や若手経営者には、特に心すべき教訓であると思います。(大関暁夫)