昨(2015)年、アベノミクスの「新たな3本の矢」にも含まれた事で話題になった、「介護離職ゼロ」。連日のように介護に関するニュースが流れる中で、「介護離職」という言葉はみなさん耳にした事があると思います。
少子高齢化が進む昨今、自身や伴侶の両親等の事で、一度は問題に直面することもあるでしょう。家族の介護を理由に離職してしまう「介護離職」ですが、会社と家族の間に立たされ、悩んでいる方は多くいると思います。今回はそういった介護離職を防ぐ、休暇制度について解説していきます。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
母が寝たきり状態に
一緒に住む母親は元々体調が良くなかったのですが、最近急に病状が悪化し、寝たきり状態になってしまいました。母の病院の付き添いや介護の為、会社を最近休みがちになってしまっており、会社に迷惑をかけてしまっていて大変心苦しく思っています。
なので、これ以上迷惑をかけるのであれば退職するしかないか、と考えていたところ、同僚が「介護休暇の制度を使ってみたら?」と声をかけてくれました。しかし、上司に相談したところ、「今は取らせている余裕がない」と言われてしまいました。こうした状況では、制度を利用することはできないのでしょうか?(実際の事例を一部変更しています)
弁護士解説 介護休暇と介護休業の違い
昨今の高齢化社会において、ご相談者のように介護と仕事の両立に苦慮している方は多いと思います。そこで、介護と仕事の両立を図るために、育児・介護休業法という法律があります。この法律において、介護休暇・休業取得についてのルールが定められています。該当の制度としては介護休暇と介護休業というものがあるので、ご説明します。
●介護休暇::介護が必要な家族に必要な世話をするために年5日まで、1日単位で単発的に休暇を取ることができる制度です (その介護、世話をする対象家族が2人以上の場合にあっては、10日間認められます)。
○介護休業::通算して1回あたり93日まで、長期の休みを取ることができる制度です。
介護休暇・休業は、どのような雇用形態の方が、どのような場合に取ることができるのでしょうか。雇用形態について、日雇い以外の雇用形態であれば、原則として介護休暇・休業取得の対象となります。したがって、正社員だけではなく、アルバイトや契約社員等の方も対象になります。しかし、下記の様な場合には対象外になってしまう可能性があります。
●介護休暇::勤続6か月未満や週の決められた労働日数が2日以下の方。こちらは「労使協定」という会社や労働組合と労働者の間での定められる協定によって、対象外と定められている場合は対象外となってしまいます。
○介護休業::勤続1年未満の方。上記と同様、介護休暇の対象外にする等の定めがあれば対象外となってしまいます。また、期間を定めて雇用されている労働者の方は、雇用期間が1年以上で休業開始日から93日を経過しても引き続き雇用されることが見込まれることが必要です。
したがって、このような例外もあるので、介護休暇・休業の取得を考えておられる方は、一度どのような決まりがあるかを会社に確認した方が良いと思います。
条件を満たせば、会社は介護休暇・休業の申出を拒否できない
次に、どのような場合に介護休暇・休業を取得できるかについてですが、「対象家族」が「要介護状態」になった場合に限られます。「対象家族」とは、配偶者、父母及び子、配偶者の父母、同居かつ扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫のことを言い、祖父母や兄弟姉妹、孫は、同居かつ扶養していないと「対象家族」に当たらないので注意が必要です。そして、「要介護状態」とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態を言います。
ご相談者の件では、お母様の病気が悪化して寝たきりになってしまったとのことなので、「対象家族」が「要介護状態」になっていると思われます。したがって、ご相談者が、先の雇用形態のところで説明させていただいた条件をクリアーしていれば、会社は介護休暇・休業の申出を拒否できません。
仕事も重要ですが、家族の健康も大事です。介護休暇・休業が必要な場合は、この制度を是非利用して下さいね。また、条件をクリアーしているにも関わらず、会社から介護休暇・休業を認められないというケースの場合は、弁護士に是非ご相談してくださいね。
ポイント2点
●日雇い以外の雇用形態であれば、原則として介護休暇・休業取得の対象となる。しかし、介護休暇は勤続6か月未満や労働日数が週2日以下の方、介護休業は勤続1年未満の方は、協定によって対象外となる可能性がある。
●介護休暇・休業を取得する際に、介護対象者が、「対象家族」が「要介護状態」である場合に限られている。