おぉぉ、また始末書かよ! 絶叫する若手係長に起きたコト
【職場のストレス大解剖】

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   「尻ぬぐいストレス」という言葉がある。

   想定していない「小さなショック」に、遭遇した時に起きる。

   ある日、山手線の中で、真っ青な顔で携帯を握り、絶叫しているビジネスマンの声を聞いた。「おぉぉー。またかよ!」と口がゆがむ。「これで3回目の始末書だよ。あの野郎」。どうやら部下が見積書を失敗するか何かして、非常に困ったことになっているらしい。本人は係長に昇進したばかりのようで、鬼部長に始末書を取られる。叱られる覚悟で提出することを嘆いている会話であった。

「尻ぬぐいストレス」を感じるとき

マジかよ!?
マジかよ!?

   社会が効率化されてくると、自分ではコントロールできない場面でも責任を取らされる。

   「あいつが悪いのに、なんで俺が」と思った瞬間に、心の中は「くやしさ」「忍耐」といった忸怩たる思いにさいなまれ、心に残っていく。私は、これを「尻ぬぐいストレス」と勝手に呼んでいる。これを放置すると、トラウマと似た状態になることがある。

   トラウマとは「外傷体験(精神的ショック)による心の傷」のことだ。その状態が継続した後に起こるのが「PTSD(Post Traumtic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)」である。

   定義は「生死に関わるような脅威体験をし、強いストレスを受けて生じる適応上の障害」である。元はアメリカのベトナム帰還兵の方々が帰国後に、不適応状態になって苦しむ人が多かった。そこからこの概念が生まれた。「ランボーの映画」は、PTSDの映画ともいわれている。私も見たが、精神医学や臨床心理学的観点から、よく制作されていると感じた。ラストシーンの元上司の大佐がランボーの心の傷をいやす場面は印象的だ。

3つのチェックポイント

   事故や災害の時に「心のケア」として精神科医や臨床心理士が派遣されるのは、この「心の傷」ケアのためなのである。

   PTSDまではいかなくとも、私の観察の範囲ではあるが、想定しえない小さなショックによっても、私たちは忸怩たる思いに至る。冒頭の若い係長さんの体験のように「自分のミスは努力」で防止できても、「部下のミスを防ぐ」というのは、初めての経験だ。尻ぬぐいストレスが重なると、トラウマまでいかなくとも、近い状態になってしまうかもしれない。

   自分で「尻ぬぐいストレス」に気づくポイントは、

(1)夜、入眠しても寝付けない(過覚醒:憤りによる興奮)
(2)眠ったら「鬼部長」が夢に出てきて起きる(悪夢)
(3)明日は、会社に行きたくない(回避)

の3点だ。こういうパターンになれば、ちょっと心が疲れていることになる。トラウマ状態の「兆し」と私は勝手に呼んでいる。

お勧めの対処法

   精神衛生的には、日常、誰でも経験する「小さな精神的ショック」に対処するため、私は「ストレスワクチン教育」として下記コーピング(ストレス対処法)を勧めている。

(1)1日7時間くらい睡眠を確保すること(PTSD発症と有意差あり)
(2)バランスの良い食事をとること(脳内伝達物質:セロトニン等を増やす。さらに、野菜、くだもの等々の摂取を忘れずに)
(3)仕事の隙間に深呼吸などのリラクゼーションをすること(過覚醒への対処)
(4)生活習慣の改善をすること。寝酒ではなく、少量のナイトミルクを飲む、あるいは散歩などを工夫すること
(5)燃え尽き症候群にならないよう(バーンアウトしないよう)に時間管理すること
(6)可能な限り、医師やカウンセラーに相談してみること。理由はストレスと思っていたら、別の原因であることも考えられるから。

   ストレスの多い時代、お互いに助け合って乗り越えていきましょう。(佐藤隆)

佐藤隆(さとう・たかし)
現在、「総合心理教育研究所」主宰。グロービス経営大学院教授。カナダストレス研究所研究員。臨床心理学や精神保健学などを専攻。これまでに、東海大学短期大学部の学科長などを務め、学術活動だけでなく、多数の企業の管理職向け研修にも携わる。著書に『ストレスと上手につき合う法』『職場のメンタルヘルス実践ガイド』など多数。
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