一連のSMAPの独立騒動と謝罪関係にいたるプロセスは、一見すると明るく夢のある芸能界の裏事情を公にさらす結果となった。概要を整理すると、複数のメンバーが事務所移籍を決意するも、事務所の同意を得ない移籍は業界的に認められず引き受け手がないまま残留、フジテレビにおける公開生放送での謝罪という形で禊を済ませたものだ。
あれだけの大物グループが憔悴しきった表情で並ぶ姿に衝撃を受けたという人も多いのではないか。「芸能界の闇の深さを知った」という声もしばしば耳にする。
だが、今回の騒動で見えた芸能界の体質は、実は日本企業でも広くみられる一般的なものに過ぎない。いい機会なので簡単に説明しよう。
「芸能界は可愛いもんだ」の理由
まず、特定の企業間や業界内、あるいは同じ財閥系グループ内で「社員の中途採用は行わない」旨の取り決めは、90年代までは割と普通に存在した。転職を認めてしまうとノウハウや技術情報を持った人材が流出するリスクがあるし、転職という選択肢を与えてしまうと従業員の立場が強くなってしまうためだ。さすがに2000年代に入ってほぼ形がい化したが、それは発展的解消というよりは単に余裕がなくなっただけで、芸能界を笑えない。
組織の利に反した人間への制裁などは、芸能界以上に強烈だ。かつて運輸業界のカルテルを告発した自社の社員に対し、トナミ運輸(東証一部上場)は30年以上に及びマトモな仕事は与えず、2006年の定年まで文字通りの飼い殺しにした(06年2月、控訴審で和解)。同社が特別ひどいわけではなく、似たような話はしばしば耳にする。
要するに「人の出入りの少ない閉じた組織では、組織の都合が個人の権利を圧倒する」ということだ。近年、東芝やオリンパスといった大企業の長年にわたる粉飾決算が問題となったが、その根っこにあるのもこの構図だ。むしろ、カメラの前で心にもない謝罪をさせられ赤っ恥かかされるくらいの芸能界は可愛いもんだというのが筆者の感想である。