S社が教える3つの教訓
この状況は、「どうぞ悪事をはたらいてください」と言っているようなものです。普通の取引先ならともかく、自社の屋台骨を支えるような取引先に関して、他の社員が入り込む余地がないような状況を作り出してしまうのは、いつ社員の出来心で会社をつぶされてもおかしくない状況なのです。もしこのような状況があるなら、すぐにでも思い切った担当替えやローテーションによる相互けん制を働かせる必要があるのです。
もう1点、教訓として上げておきたいのは銀行取引です。私自身が元銀行員なので、余計に気になっていたのですが、K社長は根っからの銀行嫌いでした。子供の頃に親戚が借金のカタに自宅や田畑を取り上げられてきたのを見て来たからと、「借金は死を招く悪行」と公言してはばからなかったのです。銀行とは預金取引のみ。無借金の優良企業でもあったので、たびたび取引銀行の支店長が新規融資打診目的で尋ねて来てはいたものの、ほとんど門前払い状態。「決算書など絶対に銀行には見せない」と、秘密主義を貫いてきました。
銀行はいかに長年にわたる大口の預金先であろうとも、平素からその業績や業況を把握していなければ、例え企業の存続にかかわる緊急融資の申し込みがあろうとも対応は難しいのです。その結果、今回のような有事発生においても、銀行の協力を仰げず最悪の事態を招いたのだと思います。
どんなに安泰に見える企業でも、ビジネスにおカネがつきものである以上、「一寸先は闇」なのです。受注1社依存のリスク、業務が人に付くリスク、銀行を遠ざけるリスク。S社が教える3つの教訓は、日頃から多くの中小企業経営者に自問自答していただきたいことでもあります。(大関暁夫)