売上の1社依存度は高いまま長年・・・
創業50年超の実質無借金経営で一見屋台骨がしっかりしていたかのように見えたS社ですが、社長歴30年超になるK社長のマネジメントのどこに落とし穴があったのでしょうか。私自身の記憶をたどりつつ関係者の話を聞いてみることで、今回の件から中小企業経営に関するいくつかの重要な教訓を得ることができましたので、それを以下に記してみます。
K社長は、社長歴こそ長かったのですが二代目のお坊ちゃんでした。新しいことにはあまり手をつけず、基本は従来路線踏襲。企業の経営が盤石であったのは、先代が築いた大手N社との太い取引があったからでした。端から見ていても、N社のグループ企業にも近いほどの「親戚づきあい」的関係はちょっとやそっとでは崩れそうになく、売上の1社依存度は高いまま長年安穏とした企業経営を続けてきました。
今回の悲劇における最大の原因はもちろん社員Tの売上金持ち逃げにありますが、Tが担当していた大手N社への売上依存度の高さもまた、潜在的リスクとして常日頃から認識する必要があったのでしょう。取引解消と言う外的リスクがどんなに低くとも、今回のような思わぬ社内不祥事による潜在的リスクが顕在化する可能性もゼロではないのですから。
また、最大の原因である社員Tの売上金持ち逃げも、社長の従来路線踏襲が生んだ弊害であったとの見方ができます。社員Tは50代の幹部社員でしたが、入社以来何らかの形でN社にかかわりここ20年ほどはN社担当責任者を一手に引き受け、社長からの信頼も最も厚い社員だったのです。中小企業ではよくあることですが、業務が人に付いてしまい、他の人間からは見えない、易々とは担当替えができない状況になっていたのです。