他人の手を借りられずにいられない
そして、「社員の雇用を守る」の次に「お客様」が来る。「ウン?どうもおかしい」と思われる読者もいるだろう。「お客様は神様です」という言葉が流行ったことがあった。あらゆる業界で川下指向が幅を利かし、この言葉は金科玉条のごとく使われた。しかし、お客様さえ大事にしていれば、会社は維持、発展していけるだろうか。首を縦に振る読者は経営者にならないほうがいい。実は、それはあり得ない方程式だからだ。なぜだろう?
一人で事業を始めた人がいるとしよう。顧客を開拓して、販売ができるようになり、事業は順調に滑り出した。ところが、自分一人で仕事をこなしている間は、バタバタ忙しいだけで、さほど利益は残らない。僥倖に出会って大儲けしても、それは経営とは言えない。たんに一人親方であり、ブローカーだ。毎年、売上、利益を維持し、増やそうと思うと、他人の手を借りられずにいられない。それが従業員であり社員だ。
一人でしているビジネスは商売であって、やり繰りであって、経営ではない。経営は、ある事業目的を将来にわたって実現しつつ、利益を上げてゆく、という行いを称する。それには自分以外の社員が欠かせない。経営は、自分と妻以外の人を一人でも雇った時に、スタートする。長寿企業はそれを100年以上続けてきたのだから、「雇用を守る」という意識が骨の髄まで染みこんでいるのだ。
この連載では、先に触れた調査から分かった長寿企業のさまざまな知恵を紹介していきたい。(浅田厚志)