アドラー心理学を不正対策に応用すると? その共通するキーワードとは

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他人のみならず自分も欺く

   米国の犯罪学者ドナルド・R・クレッシーは、この点を「perceived opportunity」つまり「認識された機会」という表現を用いて強調している。「上司のチェックは甘いから」「預金の管理は自分に一任されているから」横領してもばれないだろうと主観的に認知してはじめて、機会の存在が不正リスク要因となるのである。

   「正当化」が、主観的認知の産物であることは明らかだ。横領を正当化する理由づけとして最も多いのは「盗むのではなく一時的に借りるだけ」というものだと言われているが、客観的かつ冷静に考えれば、横領という犯罪行為を正当化する余地など全くない。プレッシャーや不満を抱え込み、目の前に機会があると認知した人は、正当化という要素を主観的にでっちあげて、他人のみならず自分も欺くのである。

   主観というのは、本人がそれを言葉や態度で示してくれない限り、他人には分からない。ましてや「私は今、不正のトライアングルを認知し、それを利用しようと考えています」などという主観を表に出す人はいない。そこが不正対策の難しさであるが、アドラー心理学の理論を活用して部下の主観的認知に対する感度を高められれば、不正のトライアングルを作らせない職場づくりに役立てることができるかもしれない。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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