今日のテーマは「仕事の意義」。
先月、J-CASTニュース配信記事「インターンシップで『名刺の入力』させるのはどうなのか ライフネット生命・岩瀬社長の発言巡り賛否両論」(2015年11月30日)が話題となりました。
この騒動は、学生・採用担当者双方とも様々なことを示唆していますので、改めてご紹介します。
ライフネット生命保険の「インターン」を辞めた学生
ユニークな採用で知られるライフネット生命保険。同社については当連載でも過去に取り上げたことがあります。このほど、同社の岩瀬大輔社長が、インターンシップ学生を過去に受け入れたことを明らかにしました。
岩瀬社長によると、「ドアの前で待ち伏せされるぐらい」熱心な学生がインターンシップを希望したため受け入れました。
そして、仕事として自身の持っている顧客や知りあいの名刺を全部Excelに入力するように伝えたのですが、学生は2週間後に辞めると言い出します。
「自分はマーケティングとかそういう仕事をしたかった」
なのに、入力作業とはつまらない、ということでしょう。
これについて、岩瀬社長は、
「たとえば地域別と業種別に分けたりすれば、単純作業でも楽しめるはず」
「面白い仕事なんてないんですね。ただ自分で工夫して面白くできるかどうかだと思います」
と考えました。が、これについて、ネットでは賛否両論となります。
擁護論多数の社会人、否定論多数の学生
観察してみると、岩瀬社長を擁護するのは社会人、非難するのは学生が多数のようです。
擁護論としては、
「出待ちとかマジうぜえ。中に入れてくれただけでも御の字だろ。俺だったら無視だな」(堀江貴文氏)
「例えば、1枚の名刺から、その会社全体にこうやってアプローチ営業をかけたらどうでしょうか?と提案をしてみるとか(ダメ元でええやん)。ちゃんとお礼の手書きハガキを出してますか?あ、じゃあ私やってみたいです!綺麗な絵葉書こんなのあります、文面はこうで・・・とか仕事はけっこうひろがるぜ?」(11月30日記事へのコメント)
など。
一方、否定論としては、
「単純作業なんてありえない」
「本人(学生さん)の望みを叶えてあげるべきだよ!名刺入力って(笑)」(同上コメント)
など。
一歩前のそのまた一歩前へ行きたい学生
ライフネット生命保険は、そもそもインターンシップを募集していません。講演の「出待ち」でわざわざインターンシップを志願するとは、その時点で他の学生よりも、行動力は、はるかにあります。
ただ、もったいないのは、そこからです。「名刺入力の仕事を与えられてつまらない→2週間も何も変わらない→じゃあやめよう」という三段論法になってしまうところが、なんだかなあと思うわけです。
岩瀬社長の指摘のように、地域別に分類する、というのもありですし、ブログコメントにもあるように、アプローチ営業をかける提案をするとか、お礼はがきを出すというのもありです。
肩書で分類していくというのもありですね。仮に課長クラスが多いなら、課長向けの本を書くように提案するというのも有効だったはず。
入力作業をしながら、毎日あれこれ提案していけば、それがことごとくボツになってもどうでしょうか。おそらく、岩瀬社長ほどの方なら、企画・マーケティング能力に見どころあり、として、入力作業以外の仕事も任されたはず。
そうした可能性を考えれば、この学生と、同調して岩瀬社長を批判する学生は、ちょっともったいないかなあ、と思うわけです。
よくあるタイプの学生を社会人はどう変えていく?
一方、社会人はどうでしょうか。
岩瀬社長が正しい、学生はケシカラン。ま、確かにお説ごもっとも。しかし、どう考えても、こうした学生は、他の学生よりは突破力・行動力があります。それを切って捨ててしまうと、一部の学生しか採用の対象になりません。まして、自社の新入社員として入ってきたときには、ひいては早期離職につながるわけで、それはそれでもったいないのではないでしょうか。
まあ、黙っていても学生が来る企業ならそれでいいでしょう。問題は、そうではない、多くの企業です。
現実問題として、この騒動に出るような、行動力はあっても(あるいは平凡)、与えられた仕事に意義を見出せないと、途端にやる気をなくしてしまう学生・新入社員は今後、増えこそすれ減ることはないでしょう。
その際、単に切って捨てるだけか、それとも、意義を丁寧に説明してあげるのか。それで、内定辞退・早期離職などはかなり変わるはずです。
もちろん、一から十まで全部、意義を説明しないと仕事ができないなら、それはそれで問題です。
最初は意義を説明しつつ、徐々に、「意義を説明しなくてもわかれよ」という方向にもっていく、そんな工夫が今後の新卒採用と新入社員研修には求められるのではないでしょうか。
岩瀬社長騒動を見て、ちょっとそんなことを思った次第です。(石渡嶺司)