『年収は「住むところ」で決まる』という都市経済学の本を読んでいるのですが、この本の著者は、「先進国の製造業は復活しない」と断言しています。
昨今、アメリカでは、工場が国内回帰するという現象がちらほらあるようです。本によれば、GEが、ケンタッキー州の工場で家電生産を本格的に開始、オンラインサービスのカーボナイト社は、メキシコから工場を引き上げサウスカロライナ州に移しました。
「上海で工場を運営するより安いから」
さらに、米国企業だけでなく、海外の企業が米国に工場を作る例も現れたといいます。
運城製版という中国企業が、サウスカロライナ州に工場を設立したのです。
しかし、その理由も書かれてあって仰天しました。
「上海で工場を運営するより安いから」
さて、日本は円安です。製造拠点の国内回帰のニュースも、ちらほら聞くようになりました。
中国の賃金水準は上がってきていて、さらに人民元も、対円で50%ほど上がりました。一方で、日本の賃金はむしろ下がっているくらいですから、工場労働者の賃金においても、日本人もさして変わらんということもあり得てくるのだろうと思います(ここ最近、ようやく少し実質賃金も上がって来たようですが)。
日本で高卒の工員1人が月15万円で雇える地域があるとして、なんと1200ドルたらずです。
まだ日本のほうが高いが、従順で長期で働く日本の労働者を雇えるなら、そちらのほうが効率的と考えるかもしれません。中国企業が、日本国内に工場を次々と設立する日も遠くないかもしれません。
人口と電力の問題
工場だけではありません。シリコンバレーでは、エンジニアの給与の下限が15万ドル(1800万円)ですが、日本では同じレベルの人材が700万円も出せば雇えます。
日本は、オフショアの拠点として魅力的になってきているのです。
ということで、もしアベノミクスが狙っているのが、円安によるこういうことだとしたら、日本の将来は明るいのでしょうか。再び賃金で競争し、安くて勤勉な労働力で、世界の工場を狙うというなら、面白い発想ですが、あり得なくもないでしょう。
ただし、それでも日本に、単純な組み立ての製造拠点が戻ってくることはないと思います。 理由は2つで、
・人口が足りない
・電力が高い
です。
どちらも致命的。中国の工場では、工員がたりないとなれば、10万人単位で人を増やすことも可能です。日本では、どれだけ採用にがんばっても、10万人の工員を短時間で確保するのは不可能。おまけに、電力が高い。
結局、国内に工場を戻している企業は、「国内の休眠設備の稼働率向上」や「生産ライン効率化のためのモデル拠点として」の回帰にとどまっているようです。(大石哲之)