マニュアルという言葉は使わず
しかし社長の反応は芳しくなく、私の提案にこう言いました。
「これまで私のやり方をいくらやらせようとしたところで、うちの営業たちは全く付いてこられていない。だから私がいつまでも営業の先頭を走り続け、彼らがその手伝いをしているわけです。私の営業をマニュアル化したところで、結局私の個性で稼いでいる営業活動ですから、現実には意味がないのではないかと思うのですが」。
社長がイメージするマニュアルと、我々が作ろうとしているものにはだいぶズレがあったのですが、「社長がいなくとも稼げる営業スタイルをいかに定着せるか」という作成の目的にご理解をいただき、作業に移ることになりました。
我々はまず、現場の営業活動実態を調査し問題点を洗い上げました。その上で、社長が創業から今に至る間にどのような営業活動をし、どのようなことを心掛けて来たのか、何度かに分けて入念にヒアリング。さらに社長の外訪活動にも随行し、その「個性的」な営業スタイルを入念に分析しました。そして作り上げたものが、「営業マグナカルタ」でした。マニュアルと言う言葉は社長だけではなく、社員からもファストフード的な没個性のスタイルを作り上げるとの誤解を生むと考え、命名に工夫をしたのです。
マグナカルタとは「法の支配」と言われる中世イングランドの法典であり、王も「法」の下に置き市民には「法」下での自由を与えた大憲章です。すなわち営業を社長が思う型にはめるのではなく、社長が作ってきた営業スタイルから優れたポイントを抜き出しかつ個性の部分を削ぎ落として現状の問題点にはめ込む。それを「法」としながらも個々の営業担当には自由な営業を展開させる、それが「営業マグナカルタ」です。