前回、美味しい食べ物としての『スシ』と、長い修行をした職人が作ったという物語が乗っかった『寿司』についての話をしました。
この「物語」というのは、今後、日本で、いや世界中でモノを売って行くにあたって非常に重要な要素なので、もうすこし掘り下げてみます。
さまざまな「物語」
まず、物語というのは、誰にでもあるということです。
我々は、日本人であり、男性だったり女性だったりして、出身地があり、今までやってきたことがありと、様々な物語を背負っています。そして、その物語は意外とたくさんの所で売りになる場合があります。
例えば、スシ職人。
外国でスシ屋に行くと、結構な割合で日本人の板前が1人います。彼は修行を積んだ職人である場合もありますが、多くの場合はちょっとスシを習ったレベルの人です。なんの経験もないバイトである場合もしばしばです。
でも、外国人からしてみたら、そこには「日本人がいるスシ屋」という物語になり、「あのスシ屋は本格的だ」ということになり、チリソースとともにその物語がスパイスになり美味しい食事になるわけです。
そんなバカな、と思われる方もいるかと思いますが、実際、日本国内でインドカレー屋にはインド系の店員がよくいますよね。タイ料理屋には東南アジア系の、中華料理屋には中華系がいます。実際、インド系の料理屋に就職するなら日本の労働ビザが降りやすいという理由もあるのですが、それ以上に彼らが店にいることにより「インド人もびっくり」という物語が付随するのです。
自分の物語を活かせる場所に移動する
そして、もう一つ。物語は決して正確である必要がないということです。
実際、インド料理屋に行って、その店員に国籍を聞いてみてください。かなりの高確率でネパール人やパキスタン人です。ただの金持ちの学生で、カレーなんて1度も作ったことがない、なんて人もしょっちゅうです。「イスラム教徒なんで、豚食べられないんですよ」とか言いながらポークカレーを煮込んでいるパキスタン人にも会ったことがあります。
日本人には、インド人とパキスタン人とネパール人の見分けができないからこういうことが起こるわけですが、逆に南米の地方都市とかに行くと、韓国人や中国人がやっている日本料理屋が平気であります。私はそういう店で、御飯の上にトンカツをのせ、コーラをかけた「カツ丼」にであったことがあります。恐ろしいことです。
そんなことを推奨するわけではありませんが、もしあなたが何か事業をしたい、自分を活かせる仕事をしたいというときに是非考えてもらいたいことは、「自分が持っている物語はなにか?」ということと、「自分の物語を活かせる場所はどこか?」ということです。
日本人であるというだけで、スシに物語を乗せられる場所があります。南米の田舎町ならあなたが普通にカツ丼を作るだけで、周りの韓国人経営の日本料理屋を駆逐できるかもしれません。
自分の物語を活かせる場所に移動するだけで、あなたの価値は大きくなるのです。
人と違うことをする
物語の価値を活かすのに重要な事は「希少性」です。
東京で日本人の店員がいてもなんの希少性もありません。でも、インド系の店員がいると希少性があり物語を産みます。そして、希少であればその正確性は問われにくくなります。「(素人のネパール人が作る)本格的インドカレー」のように、インド系の人が少ない国ではインドでもパキスタンでもネパールでも物語を産むのです。
だから、自分の価値を高めるためには、周りに自分と同じような人がいないところに行くのが重要です。
日本人であることを活かしたいのであれば、日本人が少ないところ。「海外で働きたい」という志向を活かしたのであれば「海外で働きたくない」人が多い職場、など。
人と違う事をすることで、あなたの価値はあがるのです。
勉強をしなくても東大に入れるとか、特に意識をしなくてもどんどん人が寄ってくるみたいな人は、みんながやるような王道に行って、競争に勝ち抜くのがベストです。しかし、そうではない人は、人と違うことをして、自分の「物語」を高く売ることを考えてみてください。(森山たつを)