「解雇の金銭解決」とは文字通り、裁判で不当と判断された解雇について、労使双方が了承すれば金銭で解決できる制度のことだ。かねてより政府や経済界はこの制度を望んでおり、この度厚生労働省の検討会で議論が始まった(2015年10月29日)。
翌日の朝日新聞(電子版)では、「労組が警戒感『すべてカネで決着』」と刺激的なタイトルで懸念を表明したが、果たしてこれは労働者にとってリスク要因なのだろうか?
「政府や経済界」VS「労働組合」の言い分は真っ向から対立
解雇について裁判で争い、それが有効なものと判断されれば、もちろんそのまま解雇となる。問題になるのは解雇が無効と認められた場合だ。その際、社員は元の職場に復職することになるのだが、会社にとって1度は解雇と判断した社員であるから、「お金を払ってでも復職してほしくない」というケースがあり得る。また、社員側にとっても「裁判で名誉は回復できたが、争った会社には戻りたくない」と考えるケースもある。そんなときに「金銭解決」というルールがあれば、余計なわだかまりも解決し、労働者にも企業にもプラスになる。政府や経済界が望んでいるのはそんな理由からである。
しかしこの流れに対して、労働組合側は強い警戒感を示している。
連合(日本労働組合総連合会)は「会社がお金さえ払えば労働者をクビにできる制度」として、絶対反対の姿勢だ。Webサイト上では丁寧にQ&A式で制度を説明しており、上記のような経済界の見解(職場復帰を希望しない人もいる。「解雇の金銭解決制度」があった方が、お金をもらえて良いのでは?)に対して、以下のように回答している。
A:確かに、職場復帰を希望せずにお金をもらいたいという労働者もいます。しかし、そのような希望があった場合、現在でも裁判上の和解によって金銭的な解決を行うことも可能ですし、2006年から制度化されている労働審判においても同様の解決をはかることが可能となっています。このような状況にある以上、金銭的な解決を望む労働者が存在しているということを理由に、新たな制度を導入する必要はありません。それよりも、このような制度を導入した場合、「金さえ払えば自由に解雇できる」といった風潮が広まってしまうデメリットの方がはるかに大きいのです。――
このように労組側は、金銭解決よりも先に、既存の労働審判など制度を活用することや、そもそも不当な解雇が横行しないように規制をさらに強化することを求めてきた。また、金銭解決制度ができることで、「職場復帰したい社員」の復職が難しくなることへの警戒感も抱いている。