日本では、外国に行きたがる若者が減っているという嘆き節をよく耳にする。一方で、将来の備えのために自国では得られないような体験を子供にさせたい、と思っている親も多いようだ。
こうした親の思いは新興国でも同様で、子どもに若いうちから海外を体験してほしいと留学フェアなどに積極的にリサーチに行く親も少なくない。このほど、ブラジルの留学フェアに、ユニセフ(UNICEF:国連児童基金)がブースをかまえた。しかし、そこで宣伝されたのは、「絶対、子供に体験させたくない」ような留学プログラムだった。いったいなぜ?
無給で労働をさせられたり、誘拐されたり・・・
ユニセフは今回、ブラジルのサンパウロの留学フェアに「ECA Exchange Programs -- changing children's lives」と呼ばれる「偽の留学ブース」を設置した。
留学ブースでは常駐スタッフが熱意を込めてプログラムの魅力を伝えるが、留学生ができる体験は、聞けば聞くほどわが子に体験させたいような内容ではない。無給で労働をさせられたり、誘拐されたり、兵士として訓練されたり・・・。聞いていた親たちは首を振り、次々と否定的なコメントや表情を返す。「こんな留学は必要ないだろ」という感想を口にする親も。
しかし、これが架空のプログラムであり、世界の紛争地域で暮らす子供たちが実際に置かれている状況であることをスタッフが明かすと、それを聞いた親たちはいたたまれない表情になる――そう、こうした子供たちの生活を知ってもらうのが、ユニセフの目的だったのだ。
実際に貧しい国々ではこういった現実があることを誰もが知りながらも、どうしても他人事になってしまいがち。この取り組みで「自分の子供にそんな体験などさせられない」と感じたことで、よりリアルに落とし込まれたようだ。このブースでの体験を通し、援助をしたいと思った親たちが多かったようだ。
普段の生活とは無関係なことでも自分ごとと捉えられると、ひとは手を差し伸べたいと思うのかもしれない。その裏返しとして、自分がいかに無関心であったかを気付かされる企画だった。(執筆:赤江龍介 編集協力:岡徳之)