経営者の断ち切ろうという「決断」が必要
私は「融資の否決回答は極力早くせよ」という課長の指示で、その日の夕方にはG社運転資金の拝辞稟議書を書いていました。支店長が店に戻ると、課長と私は支店長席に呼ばれました。
「G社への長期運転資金融資は協力します。応諾方針の稟議書をすぐに上げてください」
と、支店長は我々に言いました。課長は再度、今のビジネスパートナーと切れることのリスク、1年で販売先を再構築することの難しさを力説し、本案件はG社のためにも拝辞方向とするべきではないのかと訴えました。それに対して支店長はこう答えました。
「実は今G社社長に会って直接お話をうかがってきました。確かに課長の判断も銀行員としての融資の書面審査上は正しいかと思います。しかし、企業経営においてさらに重要なことは、社長が感じているビジネスの『流れ』です。良い『流れ』はうまく乗ることが大切で、逆に悪い『流れ』は上手に断ち切ることが肝要です。その手伝いをするのが銀行の役割です。ただし悪い『流れ』を断ち切るには、経営者の断ち切ろうという『決断』が必要です。社長の話をうかがって、それが確認できたので今回の融資は私の責任で協力します」
銀行に入って間もないその時の私には、支店長の言っている話が十分には理解できませんでした。しかし、その後G社は一次的に売上が落ち込みはしたものの、社長陣頭指揮の下銀行の支援を受けて、半年ほどの間に新たな販売先とビジネスパートナーを見つけ見事に業績を回復させ融資金も全額返済されました。私は、ビジネスには『流れ』があるということ、良い『流れ』に乗ったり、悪い『流れ』を避けたり、ビジネスにはどうやらそう言うことがあるのだということだけは、おぼろげでしたが教えられた気がしました。