個人的に懇意にさせていただいているIT関連企業のH社長から、こんな相談を受けました。
「数年間一緒にチームを組んで事業をやってきた企業の社長との折り合いが悪くなって、どうしたらいいものか悩んでいます。先方の資金繰り難から支払い猶予を巡ってガタガタした今春以降、特に悪化しました。余計なことに気を奪われているといろいろマイナスも多い。かといって切ってしまうには売上ダウンのリスクが怖く、悩ましいところなのです」
この話を聞いて私は、銀行に入って間もない頃の取引先がらみの出来事を思い出しました。
定期的に訪問していたプラスチック成型業G社の社長から、ある日突然数千万円単位の長期運転資金の打診を受けました。ビジネスパートナーとして商社機能を担当しG社製品を大手企業に取り次いでいるB社とのパートナー関係解消に向け、売上減少に伴う当面の運転資金を融資して欲しいとのことだったのです。
今のパートナー企業との折り合いが悪く、揉め事続き
まだ20代の駆け出し銀行員で状況が十分に把握できなかった私は、再度上司である課長を伴って社長を訪問し詳細をヒアリングしました。分かったことは、「今のパートナーとの折り合いが悪く、揉め事続きで業務に支障が出ている」「B社とは完全決別し、自社の営業努力と新たな協力企業を獲得し、約1年をかけ販売先の全面的見直しをおこなう」「販売先入れ替え安定までの赤字補てんとなる減少運転資金を協力して欲しい」ということでした。
話を聞き終えた課長は、「持ち帰って支店長と相談してみますが、減少運転資金のような後ろ向きの資金協力は難しいと思います」と話し、社長は無言ながらやや困惑した表情を浮かべました。G社は銀行にとってはメイン取引先。ここ1、2年は若干下降気味ながら利益は出ていました。しかし売上の半分近くを占める販売先の見直しをするとなれば、圧縮できない工場の運営コスト負担から赤字転落は目に見えていました。
課長は帰りの車の中で、「なんとか社長を思いとどまらせて、今のパートナーとの関係修復をさせないとまずいなぁ」と話し、私もまったく同感であると思いました。
支店に戻るとすぐさま課長と共に支店長に報告しました。当時の支店長は企業融資業務のエキスパートで、銀行内の管理者向けに融資研修の講師なども務めていた『融資のプロフェッショナル』でした。支店長は、我々の報告と課長からの今回の融資申し込みに対する否決方針を聞くと、「御苦労さま。事情はだいたい分かりました」とだけ答え、忙しそうにすぐさま公用車に乗って外訪に出かけて行きました。