近年の起業ブームもあって、地元の県関係で定期的に起業を目指す方々向けのセミナー講師を務めさせていただいております。このセミナーに参加されている企業経営者の卵の皆さん、ものすごく熱心にセミナーを聞いていただき、話をする私にとっても、大変やりがいのあるセミナーになっています。
実際、従業員向けのセミナーや研修とはかなり雰囲気が違うのです。寝ている人など一人もいない、一生懸命メモを取りながら目を皿のようにして私の話に耳を傾けてくれています。休憩時間やセミナー終了後には、列を作って私をあれこれ質問責めに。講師冥利に尽きる嬉しいことです。
人脈の力
そんな中で一番多い質問は、「御自身の経験、あるいは多くの成功されている経営者の皆さんをご覧になってきて、何をおいてもこれだけは本当に重要と思う起業のポイントを教えてください」という類のものです。この手のご質問に対する私の回答のポイントは、たいだい3点に絞られます。
まず第一に、「人脈力」です。起業における人脈の有無は最重要のポイントとなります。もちろん、直接の取引先となりうるいわゆる『持ち球』的な人脈がたくさんあるならそれに越したことはないですが、人脈経由の新たな人脈など自己の人脈を介した広がりは、無限の可能性を秘めています。
困った時、行き詰った時などに思わぬ解決策を提示してくれるのも、こういった「人脈経由の人脈」だったりするのです。修羅場をくぐりぬけて立派な会社を作り上げた多くの成功経営者が口にしている「人脈なくして今の自社はない」という言葉の裏側には、そんな人脈が生む新たな人脈に対する感謝の気持ちが込められているのです。
この話は言い方を変えれば、「人脈のない人は独立、起業をするべきではない」と言うことにもなります。例えばアイデア商品の類が大手量販店の目に止まり、取引が始まって起業したAさん。購買が一巡すると使い捨てにされ、約2年で廃業の憂き目に。「これは売れる。大化けしたら自社ビルも夢じゃない」などとおだてられ、淡い夢を描いて起業したものの、人脈不足で他の販路を開拓できないことが敗因でした。
技術力、発想力、創造力はあるのに・・・
ビジネスは長距離のマラソンレースです。途中で水分補給も必要なら、沿道からのコーチのアドバイスや、観衆の応援も欠かせないものなのです。ビジネスにおいてその役目を果たすもの、それが人脈なのです。そして、起業後も常に人脈拡大に努める必要があることは言わずもがなであります。
ふたつ目は、「営業力」です。せっかく人脈があっても、宝の持ち腐れではしょうがない。技術力、発想力、創造力はあるのに事業がうまく軌道に乗らない、そんな起業家はたくさんいます。いいものを作ったのだから、ネットにアップしておけばどこかから声がかかるに違いない。そんなに世の中は甘くないのです。無名な起業家は、ごく稀な例を除いては、自ら前に進み出ないことには何も起きないのです。「営業力」のない起業は自殺行為です。
私の周りにも、技術やアイデアがあるのでそれをもって独立したいので売り先を紹介して欲しい、と支援を求める起業志願者がたくさんいます。これは大きな過ちです。まずは自分で営業に動くこと。自分の足で営業し、自分の耳で自社製品に対する評価を聞き、どうしたら売れるのかを考え、製品や売り方の再検討を自らしないことにはビジネスは大成しないのです。
先の人脈にしても、自らの営業の成果としてこそ新たなつながりは作りあげることができるのです。成功した起業家たちはまず例外なく、自分の足で営業しながら悩みに悩んで「営業力」を高め、人脈をつないで今に至るのだということを知らなくてはいけないでしょう。
「愚直であれ」
そして最後に「継続力」です。うまくいかない、思っていたのと違うと感じるとすぐにあきらめる、あるいは安易に方向転換をする。十分な活動量を経て慎重にビジネスの進退を吟味するのではなく、感覚に頼って判断を急ぐ、あるいは我慢ができない。若い起業者に良く見られる傾向です。うまくいかないとなると周囲の雑音に惑わされて、あっちフラフラ、こっちフラフラ。これでは何事もうまくいくはずがありません。
昔から「商いとは『飽きない』ことなり」と言われます。商いすなわちビジネスにおいて、「飽きない」ことは古くから不変の真理なのです。要は、モノを売ることにおいても、知識を積み重ねることにおいても、人を育てることにおいても、求められる基本姿勢は常に「愚直であれ」ということ。
休みなくコツコツと周囲があきれるほど同じことを繰り返す、そんな姿勢こそ起業家が成功する経営者になるために必要な基本姿勢でもあると、これもまた多くの成功した起業家経営者の日常的な行動を目にしてきた中で実感するところであります。
そんな夢多き起業家志望の皆さんの質問に答えた後いつも思うことは、自らも含め起業の時期を過ぎた世の経営者のどれだけが、この3つのポイントを今も日頃心掛けられているだろうかと言うこと。起業時のポイントがそのまま、経営のポイントのならないはずがありません。初心忘れるべからず。起業者セミナーへの登壇は、自らを省みる格好の機会にもさせていただいています。(大関暁夫)