人間が集団を構成する際、「2・6・2の法則(働きアリの法則)」が働くと言われています。アリの世界では、どんな集団であれ、常に2割が「よく働くアリ」、6割が「普通に働くアリ」、残りの2割は「怠け者」に自然となってしまうというものです。
会社も同様。どんな会社であれ、能力が高い人が2割、普通が6割、どちらかというと仕事ができない人が2割、という配分ができてしまうものです。ちなみに20世紀最高の経営者と評されるジャック・ウェルチ氏は、「部下が10人いたら1人は必ず優秀で、1人は必ず切り捨てる」と言っています。
「喫煙所」が情報発信の場に
社員同士の対話の中で、ある社員の名前が出てきたとします。「あいつ、また失敗しちゃったんだよね」と、「ダメな社員」として名前が出る場合もありますし、「普通の社員」であれば「たまたま彼がこんなことを言っていたよ」と何気なく名前が挙がる場合も。これが「優秀な社員」になると、「あいつとは同期だけど、かなわないよ・・・。普通なら、あそこまでできないよね」といった登場の仕方をします。
このように、社員の名前が出る場合、その人物に対して通常なんらかのキャラクターがつけられているものです。うっかり者だったり、ダメ男だったり、なんでもない普通の人だったり。その中で、「能力が高い人」の2割の中でも、とりわけ「優秀な社員」とキャラクター化されて登場する人が、社内にほんの一握りではありますが、必ずいるのです。
では、その「優秀な社員」が社内でどのように知れ渡っていくのか。そこにはやはり、口コミの力が大きく関与しているといえます。周りの人間が「あいつは優秀だ」と言い、その言葉が部署の垣根を越えて、口伝えで広がっていくのです。
現代は「ネット時代」といわれていますが、実はいろいろな場面において、対面でのコミュニケーションが大きな役割を果たしています。
部門を超えたコミュニケーションがなされている典型的な場所の1つが、「喫煙所」です。会社の喫煙ルームでは、社内の喫煙者が集い、リラックスしたムードの中で、何気ない会話が交わされています。
タバコを吸うのはせいぜい3分、長くて5分。その数分の間に出る、ちょっとした世間話に、実はとても意味があるのです。情報発信のきっかけが、こうしたリラックスの場であるケースは多々あります。
余談ですが、社内の喫煙所で出会って結婚に至ったという話もよく耳にします。それはやはり、お互いがリラックスした素の状態で会話を交わしていることが関係しているのではないでしょうか。
ハロー効果で「優秀さ」がさらに上書き
部署を超えてコミュニケーションが取れるリラックスの場といえば、自動販売機や給湯室なども同様です。また、ランチタイムや、社内の部門をまたいだ大きなプロジェクトの打ち上げの場といった、くだけた場面での社員同士の交流によって、「優秀な社員」の噂が都市伝説のように広がることもあります。
実は、「優秀」と言われている人のことを、他部署の人間が本当によく知っているケースは、ごく稀でしかありません。大半は、「優秀なんだろうな」というイメージをなんとなく持っているだけにすぎません。ほとんどの人が、周りの「優秀」という言葉に乗せられてしまっている。「優秀」と言われる人は、良い意味でレッテルを貼られているわけです。「優秀」という印象(人事の世界では「後光」とか「オーラ」とも言います)がその人に染み付いていて、他部署の人間からは無条件で「優秀」と思われてしまうのです。
さらに、「優秀」という前提があると、実際にその人と接した際、例えばメールの対応が迅速だったり、会議での発言が冴えていたり、あるいは挨拶が元気よく爽やかだといった、何気ない行動ひとつで「やっぱりあの人は優秀だ」となります。いわゆる「ハロー効果(ある対象を評価する際、顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が主にポジティブに歪められる現象)」によって、「優秀さ」がさらに上書きされるのです。
ネットがこれだけ普及した時代ではありますが、会社という場においては、人の噂話が口コミによって広がる要素はまだ十分にあります。もちろんメールやLINE、SNSで伝わることもありますが、人の噂話に関しては、やはり記録を残したくないという心情が働くもの。結果として、口コミが主になるのだと思われます。(高城幸司)