10月に入って、大学生の就職活動が続々と終わっていると、連日ニュースで報道されていますね。私の頃は就職難で大変な時期でしたが、今は内定率が約8割という報道を見ました。売り手市場になるのは、多くの人が職に就くチャンスだと思いますので、とてもよい傾向だと思います。
しかし、複数内定を獲得した学生の、内定辞退が頻発しているのは問題ですね。各企業、説明会や面接にかなりの労力をかけていますからね。今回は、新卒に限らず就活に必ず必要になる履歴書にまつわる説明をしていきます。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
募集要項には「業界経験3年以上」とあったが・・・
私は働いていた会社を辞め、就職活動をしており、最近内定が出ました。資格が必要な職業で、当然資格は所持しています。一方で、内定をもらった会社の募集要項には「業界経験3年以上」と書いてあったのですが、前の会社は2年半で辞めてしまい、本当の業界経験は3年未満です。しかし、面接を受けるときに提出した履歴書では、「3年以上」となるよう誤魔化して書いてしまいました。
今後、もしこのことがバレたら、どうなるのでしょうか。(実際の事例を一部変更しています)
弁護士解説 解雇されてもやむを得ないかも
本件のエピソードでは、実際には業界経験が3年に満たないにもかかわらず、業界経験が3年あるかのように装って文書を作成したということになりますが、このような場合、一般の方が真っ先に思いつかれる犯罪は、私文書偽造罪(刑法159条1項)ではないでしょうか。
しかしながら、実はこの場合、私文書偽造罪は成立しません。なぜなら、文書偽造罪にいう「偽造」とは、文書の「名義(誰が作成したか)」を偽った場合に成立する犯罪であり、文書の「内容」を偽っても文書偽造罪は成立しません。なお、履歴書のような私文書ではなく、公文書の場合には、意図的に内容が事実に反する文書を作成すると、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立することになります。
では、本件のような場合、どのような犯罪が成立するのかというと、履歴書の内容を偽って作成、提出するだけでは何ら犯罪は成立しないかと思われます。もっとも、履歴書の内容を偽って作成、提出し、これにより内定を受け、実際に勤務を開始して給料をもらうようになった場合、詐欺罪(刑法246条1項、2項)が成立する余地はあるかと思われます。もし、履歴書の内容をごまかしても結局内定がもらえず、お給料ももらえなかったという場合には、原則として犯罪は成立しないでしょう。
一方、履歴書の記載や採用面接への応答の内容に嘘があり、それが職歴、学歴や犯罪歴など重要な経歴に関する場合には、就業規則に経歴詐称が懲戒解雇理由として挙げられていれば、懲戒解雇が、また、そのような規定がなければ、普通解雇される可能性があります。本件は、職歴に関して半年もサバを読み、業界経験3年以上と偽っているので、解雇されてもやむを得ないかもしれませんね。
詐欺罪の成立が考えられるケース
その他にも、資格職の資格を有していないにもかかわらず、有しているふりをして従事していた場合にも詐欺罪の成立が考えられます。弁護士に依頼したり医師に治療してもらう場合、弁護士や医師が資格を持っていることを前提に、弁護士や医師が専門的知識や技能を持っていると信頼するからこそ、少なくないお金を払ってでも依頼したり治療してもらったりするわけで、弁護士資格や医師免許のない人に依頼したり治療してもらったりする方はいないと思います。そのため、資格を有しないのに有しているふりをして資格職に従事し、その対価としてお金を得ると詐欺罪が成立することになるのです。
上記に対し、無報酬で弁護士や医師の仕事を行う場合、詐欺罪は成立しませんが、この場合でも、各資格職について定めている法律に違反すると考えられます。たとえば、弁護士ではない人が弁護士を名乗って他人の依頼を受けて訴えを提起したりすると、弁護士法74条1項に反し、同法77条の2により罰金100万円以下に処せられることになります。
もちろん会社との関係では、懲戒解雇などの責任をとらされるのは当然ですね。
ポイント2点
●履歴書の内容を偽って作成、提出するだけでは犯罪は成立しないが、内定を受け、実際に勤務し給料をもらうようになった場合、解雇される可能性が有り、詐欺罪が成立する場合もある。
●資格職の資格を偽った場合にも、詐欺罪の成立が考えられ、弁護士の場合は弁護士法に違反する事となり、罰金に処せられる可能性もある。