弁護士解説 解雇されてもやむを得ないかも
本件のエピソードでは、実際には業界経験が3年に満たないにもかかわらず、業界経験が3年あるかのように装って文書を作成したということになりますが、このような場合、一般の方が真っ先に思いつかれる犯罪は、私文書偽造罪(刑法159条1項)ではないでしょうか。
しかしながら、実はこの場合、私文書偽造罪は成立しません。なぜなら、文書偽造罪にいう「偽造」とは、文書の「名義(誰が作成したか)」を偽った場合に成立する犯罪であり、文書の「内容」を偽っても文書偽造罪は成立しません。なお、履歴書のような私文書ではなく、公文書の場合には、意図的に内容が事実に反する文書を作成すると、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立することになります。
では、本件のような場合、どのような犯罪が成立するのかというと、履歴書の内容を偽って作成、提出するだけでは何ら犯罪は成立しないかと思われます。もっとも、履歴書の内容を偽って作成、提出し、これにより内定を受け、実際に勤務を開始して給料をもらうようになった場合、詐欺罪(刑法246条1項、2項)が成立する余地はあるかと思われます。もし、履歴書の内容をごまかしても結局内定がもらえず、お給料ももらえなかったという場合には、原則として犯罪は成立しないでしょう。
一方、履歴書の記載や採用面接への応答の内容に嘘があり、それが職歴、学歴や犯罪歴など重要な経歴に関する場合には、就業規則に経歴詐称が懲戒解雇理由として挙げられていれば、懲戒解雇が、また、そのような規定がなければ、普通解雇される可能性があります。本件は、職歴に関して半年もサバを読み、業界経験3年以上と偽っているので、解雇されてもやむを得ないかもしれませんね。