「アリさんマーク」引越社めぐる騒動 社の対応の何が問題になっているのか

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会社側が担うべき責任の重さ

   会社側の主張をみると、社員側にも問題はあり、一見妥当なように思えてしまうが、ここは法律と照らし合わせて確認していこう。そうすることで、「たとえ社員に問題があったとしても、会社側が担うべき責任の重さ」が浮かび上がってくるのだ。


(1)警察署長の許可を取れば、街宣活動は合法

   道路を管轄する警察署長の許可を取れば、街宣活動は誰でもおこなうことができる。また街宣の内容についても規制はなく、あるのは「無許可の道路占有」や「騒音」に関するものである。


(2)損失を一方的に社員に転嫁することはできない

   社員の過失によって事故や損害があった場合、会社が社員に対して損害賠償を求めること自体は違法ではない。しかし会社には危機管理の責任があり、保険などの対応もしておくべきという考えから、社員に対して一方的に責任を負わせることはできない。


(3)社員が責任を負うのは、「故意や重大過失があったとき」

   社員側に賠償責任が発生するのは、「前日に深夜まで遊んでいたため、うっかり居眠り運転をした」とか「指示通りに作業しなかったことで機器を壊した」といったような、故意や重大過失があったときである。


(4)損害金の給与天引きは違法

   たとえ社員側に過失があって賠償責任があるときでも、会社が給料から賠償金を天引きすることは労働基準法違反である。


(5)裁判のために内部情報を持ち出すのは合法

   裁判で用いるために企業の内部情報を持ち出すことは、その情報を提供する相手方が法律により守秘義務を負っている(弁護士や労働委員など)場合には、会社に対して損害を与える行為にはならない。


(6)「機密情報」の範囲

   企業における「機密情報」とは、企業が利益を生み、存続維持させるために必要な情報のことであり、経営計画や財務、研究開発、マーケティング戦略、社員の給与や異動情報といったレベルのものを指す。


   いかがだろうか。法律が求める会社への責任はこれほどまでに重いのだ。

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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