「新卒」社員に組織を教育してもらう 「使い捨て企業」とは対極の発想

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   とある交流会の懇親会会場で、経営者同士のこんな立ち話を耳にしました。

   A「御社は来年も新卒を採用されるんですか。若い人が毎年入って来ると言うのは、社内にも活気が出ていいですよね。うちなんかとても受け入れる土壌がなくて、新卒採用なんて夢のまた夢ですよ。手に職を持った40代以降の中途採用を、行き当たりばったりでやっているだけですから、フレッシュさなんてこれっぽちもない。うらやましい限りです」

   B「いやいや、うちだって別に受け入れる土壌があるわけじゃない。バイトに毛が生えた程度の人件費で雇えるし、多額の募集広告費用もいらないので毎年新卒を取っているわけで。今の若いのは根性がないから、1年で辞めてしまう者も多く新陳代謝もいい。低コストの採用市場ですよ。毎年4~5人採って、翌年には大半が入れ替わるって感じです」

   A「なるほど!それは目から鱗のお話です。うちも早速総務部長に指示しますかな」

   業種は分かりません。しかし「あなた方、それはないでしょ!」と横から口を挟みたくなるような会話。さすがに知らない経営者同士の話でしたのでそれは控えましたが、こういう新卒採用の意味を吐き違えた経営者も世間にはいるのだなと、ちょっと驚きでした。

身に付けたものが、その後の社会人人生について回る

新卒です!
新卒です!

   今や終身雇用が前提ではなくなったとはいえ、新卒者にとっての採用、彼らから言えば就職と言うのはやはり、人生の重要なターニング・ポイントです。最初に入った会社で身に付けたものがその後の社会人人生について回ると言っても過言ではなく、ある意味社会人としての「育ち」はその段階で決まってしまうとも言えるのです。

   私もこれまでに多くの会社で、社会人としてのマナーがなっていない、社内連携の基本ができていない等々、個別の仕事をこなす力量はあるのに、対外折衝で失敗する、社内で浮いた存在になってしまう、そんな社員を何人も見てきました。聞けばたいてい、本来社会人の入口で教え込まれるべきことが抜け落ちてしまったが故の悲劇でした。

   私は常々「新卒採用を検討したい」と話す中小、中堅企業経営者には、「新卒を採用すると言うことは、採用した人材の社会人教育に関して外に出しても恥ずかしくない教育をするという責任を負うこと。それをちゃんとおこなう自信と決意がないのなら、採用された者がかわいそう。新卒採用はおこなうべきではない」と言い続けてきています。

   酒類卸、小売チェーン経営T社のW社長がある時に「新卒採用を始めようかと思う」と相談してきました。同社は酒類販売免許の自由化以降競争激化で生き残りのために、業務多角化の一環として、業務用スーパーを手始めに、消費者向けの食品スーパーの複数店舗展開および飲食店経営の検討を重ね、実験店舗の運用も軌道に乗りいよいよ本格スタートという段階にさしかかっていました。

   こういった段階での発言だったので、私は現場および管理部門人材の大量補充が必要になるという見通しから、人材の数確保を視野に安易に新卒採用を言い出したのだなと思いました。同社は私から見て御世辞にも、これまで人材教育がしっかりと板についているとは言い難い状況であり、私自身は先の持論を元に「時期尚早じゃないですか、よくよくお考えになられた方がよろしいですよ」とやんわりと反対姿勢を伝えました。

「大関さんのおっしゃることはよく分かります。しかし、今は別の考えがありましてね」

そう言うと、W社長から思わぬ答えが返ってきたのです。

「先日、師と仰ぐ先輩経営者にお目にかかりいろいろと話をうかがう中で、『組織は人に育てられる』というお考えにいたく感動したのです」
大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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