事業継承「手遅れ」で泣くのは従業員 「10年計画で考えて欲しい」

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普段は見えない最大のリスク管理事項

   会社経営は至って順調、しかし後継親族もなく、ワンマン体質の下ですべて社長任せの状況でやってきた従業員を短期間で後継者に育て上げるのは無理。税理士から相談を受けたY氏は調査後にそう判断して、病床の社長にM&Aによる企業譲渡を提案しました。社長は初めM&Aという言葉に拒否反応を示しましたが、限られた時間の中で「従業員にも取引先にも遺族にも迷惑がかからないなら」と企業譲渡を決断したのでした。

   その後は大急ぎで提携先のM&A仲介企業を介して、買い手候補企業経営者と病床でお見合いを重ねました。社長は気力で余命宣告と戦い半年後に同業の準大手企業への資本譲渡が決まりました。交渉の結果、社名は残る、従業員も全員継続雇用、下請けを含めた取引先もすべて引き継ぐという条件での契約にこぎつけたことで、大変感謝されたと言います。契約を終えた社長は本当に安堵したのでしょう。その4日後に亡くなられたそうです。

「このケースは、社長が死の淵に立たされていたという他に選択肢がない状況があってどうにかM&Aを受け入れてもらい、結果皆丸く収まったという本当に奇跡に近い綱渡りでした。60代を過ぎた経営者の皆さんには、事業承継の「どうにかなるだろう」は「どうにもならない」を肝に銘じてもらい、我々側面で支援する者は日頃から企業譲渡も含めたあらゆる手立てを見せ、正しい理解を求めつつ承継促進を先導していかないといけません」

   新聞記事に端を発したこれら一連の話に出席者一同、事業承継は優良企業においても、いや優良企業だからこそ普段は見えない最大のリスク管理事項である、との認識を改めて強くした次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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