資本継承とM&A
こんな状況にありながらも経営者は「いずれなんとかなるだろう」と放置しつつ、Xデーが近づいてくる。社員はそんなこととはつゆ知らず、社長が突然死して初めてどうにも立ち行かない自社の現状を知らされることに。倒産はしなくとも後継なく廃業すれば皆職を失い、40代以上社員には再就職困難と言う地獄が待ち受けているのです。
企業コンサルタントのY氏が、S氏の話をうけて続けました。
「同族承継、従業員承継が思うようにできないケースでは、資本承継という最後の手段が残されているのですけど、どうも古い経営者の皆さんはこのやり方に対するご理解に乏しく、せっかくの救われるチャンスをミスミス逃している場合も多いのです」
Y氏が言うところの資本継承とは端的に言えばM&Aのことで、他の会社や事業ファンドに自分の会社そのものを買ってもらい、自社を存続させるという手段です。中小企業には縁遠いイメージが強いM&Aですが、Y氏は「中小企業にこそM&Aは重要な戦略的手段」と断言し、ご自身がかかわった次のようなエピソードを話してくれました。
ある日突然、Y氏の会社が提携している税理士から顧問先企業の経営危機を助けて欲しいと連絡がありました。50人規模の会社社長は周囲にガンであることを隠して仕事をしていたのですが、突然倒れて入院。既に末期ガンで余命3か月を宣告され、朦朧とする意識の中で「なんとか従業員を守って欲しい」と税理士に泣きついたのだと言います。