他人事ではない最低賃金 「10月から」気をつけるべきコト

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海外との最低賃金比較はあまり意味がない

   最低賃金といえば、先般アメリカのロサンゼルス市などが、「市の最低賃金を2020年までに15ドル(1ドル=120円として約1800円)に引き上げる条例に署名」などと報道されて話題になったりする。

   フランスやイギリスでも最低賃金は日本円換算で1000円を超えるため、「日本がいかに国際的にみて低賃金か」という議論がなされることがあるが、金額だけを論点とすることはあまり意味がない。

   たとえばアメリカの場合、一部の市単位でニュースになることはあるが、各州を平均するとだいたい8ドル(約960円)程度だ。

   また、円-ドルの為替相場が直近の数年で急激に変わっていることもあり、現在のレートで円換算した額だけで語るのは正確とはいえない。また同国ではチップの制度があり、現地の記事をよく読めば「時給が上がる代わりにチップが廃止となり、各従業員が得ていたチップは直接店/企業に入り、それが従業員に分配される」「人件費増額分を商品金額に上乗せする」といった対応がなされていることが分かる。日本でそのまま応用できるものではない。

   欧州に関して言うと、日本経済がこの10年、低迷していた期間、欧州のGDPはフランスで1.2倍、イギリスで1.4倍に拡大している。1人当たりGDPで換算すれば日本は、米独英仏などより下位であるから、最低賃金がそれら各国よりも低いのは致し方ないことともいえよう。

   このような現状については様々な理由が絡み合っての結果であるが、労働行政の指針として、「賃金よりも雇用を優先」していたことも大きいだろう。実際、欧州EU平均に比べて失業率は半分以下の数値である。

   結局は景気なのだ。経済自体のパイを大きくしなければ、雇用の絶対量を増やすことも、賃金を上げることもできない。経済に手を付けないまま、賃金だけを無理に上げると必ずどこかに歪みが生じてしまうだろう。政府は根本のところから経済政策を推し進め、事業主は最低賃金アップをものともしないくらい付加価値を提供して、皆で繁栄していこうではないか。(新田龍)

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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