ラグビーめぐり経営者親子がバトル 「日本‐南ア」戦、それぞれの注目点とは

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社長「あのやり方は全く感心しない」

   ご子息は社長のこの意見に何か言いたそうにしたのですが、社長はそんなことにおかまいなしに、なおもラグビーの話を続けます。

「私が申し上げたかったのは、その事よりむしろ終了間際での逆転のシーンの話です。あれは確かに見ている者を魅了したとは思います。しかし報道によれば、あの時監督の指示は同点を狙ったキックだったそうじゃないですか。それを無視して、現場の判断で一気の逆転を狙いスクラムを選択してのトライ。ラグビーだから許されることなのかもしれませんが、指揮官の指示を無視した現場の行動は企業では絶対に許されない。せっかくの勝利に水を差すようですが、個人的にあのやり方は全く感心しないと思ったわけです」

   これにはご子息、黙っていられないとばかりに割って入る間もなくすぐさま反論しました。

「結果オーライじゃないのですか。社長だっていつも『仕事は結果が大切』と言っていますよね。あの判断は、企業に例えたとしても指揮官の判断を超えた現場のファインプレーだと思います。現場が常に指揮官の指示通りにしか動くことが許されなかったら、やる気を失ってしまいます。そんな現場のモチベーションを下げるような指揮官は即退場ですよ」

   ご子息のここぞとばかりの社長に引退を求めるかのような発言に、社長は大きくため息をついてこう言いました。

「お前は本当に分かっていない。今回はたまたまうまくいったということ。仮にあんな指揮命令無視がうちの会社で横行したら、組織は統制を失って崩壊してしまう。大関さん、さっきの助っ人の話もそうだが、息子がいつまでもこんな調子だから、まだまだ社長をやめられんのです。将来自分のやり方で会社経営をするのは一向にかまわんですが、基本だけはしっかり理解していなければ、社員のためにも社長のイスを譲るわけにはいかんでしょう」

   帝王学という言葉が、私のアタマをよぎりました。古臭い言葉ですが、言い換えるなら個々の企業特有の要素を含んだリーダーシップ論。企業文化と組織統制はその最も重要な要素であり、教えるというよりは先代を見て学び身につけるものなのかもしれません。2代目、3代目が会社をダメにするとか潰すとか言われるのは、帝王学が継承されにくいことへの警鐘なのです。社長がラグビーの話題を借りて言いたかったとことは、ご子息にはまだまだ守るべき自社の文化やあるべき組織統制が見えていない、ということだったようです。

   「3人で食事でも」という私の誘いに、恐らく社長はなぜ今回は3人なのかという会食の目的にうすうす気がついていて、先回りでラグビーの話をしたのでしょう。今度は社長の意を汲んで、ご子息と膝を詰めて話す必要がありそうです。

(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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